気になって仕方ない業界を、Harumari TOKYO編集部員が一日体験するこの企画。第二弾は、今や希少な日本髪を現代によみがえらせる「髪結い」の世界へ。
私は学生時代から日本文化に興味がありました。卒論のテーマを「花街で働く女性たち」と定め、実際に芸妓さんや花街に関わる人々の現在を取材したものです。
そんな私が、最も身近に感じられたのが芸妓さんなどの髪を整える「髪結い」の仕事でした。表舞台の華やかな人々を支えながら堅実に働く姿、これぞプロという手際の良さ、鋭い眼差しは、当時まだ社会に出てなかった自分にとってもとても眩しく写ったのを覚えています。
そこで今回、仕事旅行社を通じて訪れたのは「髪結い処 櫟(いちい)」。現在では希少な日本髪を結える美容師さんがいる美容室です。

午前11時。美容室の扉を叩くと、出てきたのは美しい佇まいの女性美容師・瀧島麻耶さん。時代劇などの髪結いというイメージから勝手に男性をイメージしていた私は、少し緊張…。

しかし、出迎えてくれた瀧島さんの優しい笑顔に、すぐにリラックス。“仕事旅行”の始まりです。
まずは自己紹介から。瀧島さんは、美容師歴20年目のベテラン美容師さん。小学校の頃から「将来の夢は美容師」と定め、それをきちんと実現したというから、芯の強い女性なんですね。
就職後、幾つかの店舗を経て、キャリア7年目の頃。大手の美容院チェーン店に転職し、わずか4ヶ月で売上トップを記録。以後、カリスマ美容師として人気を誇り、多くの人々の髪を美しく整えてきたそう。そんな華々しいキャリアを持つ彼女は、結婚・出産を経て、自らの店「髪結い処 櫟」を開店させました。

実際、この仕事旅行社の体験には、瀧島さんの経歴もあり、髪結いに興味がある人はもちろん、美容師として独立を考える人も多く訪れると言います。かくいう私も結婚・出産を経て、子を持つ身。子育てと両立しながらの働き方は、常に頭を抱えるところです。確かな技術と経験があり、それを求めてくれる環境を自ら作りだせている点は、同じ働く母として、単純にかっこいい!
さて、ここからは、本題の髪結いの時間。まずは座学にて、日本髪の歴史を学びます。瀧島さんによると、日本髪の歴史は古く、遡ること古墳時代。当時は、髪を結うゴムや飾りなどがなかったので、蔦や木の枝、花藁、麻の紐などを使って髪を結い上げていたそうです。
奈良、平安、室町時代…と時を経て、江戸時代に入ると、いわゆる今の日本髪と言われる原型が出来上がったそう。身分の高さも関係なく、町人も皆、月に1回やってくる髪結いさんに整えてもらっていたと言います。今でいう美容院が、通いで来てくれていたイメージでしょうか。
ここで、瀧島さんが実際に、マネキンを使ってのデモンストレーション。目の前で日本髪を結い上げてくれました。



テキパキと髪を結う瀧島さんの手元を見ながら、何度も「美しい」と連呼してしまった私。今まで、日本髪だけをきちんと見る機会がなかったこともありますが、計算され、整えられた髪がこれほどの美しさかと改めて思い知りました。


しかしながら、これほど心をつかむ美しい日本髪も、現在、瀧島さんの手で結う機会は、年に多くても1人。七五三か成人式だそう。結婚式では、和装の新婦さんが結っているイメージがありますがーー答えは「否」。結婚式はお色直しで洋装を選ぶ人が多いため、カツラを使用するのが一般的なのだそう。
それほど地髪で日本髪を結うことは、希少な姿となっているのです。
一旦休憩を挟み、午後からは、実際に髪結いを体験させてもらう時間。とはいえ、先の話の通り、日本髪自体は実生活で結う機会がほとんどないため、和装に似合うヘアアレンジを教えてもらうことに。
まずは、ピンとヘアブラシの基本的な使い方を習います。自分にも娘にも、毎日のように使っている道具ながら、きちんと仕上げることを見据えて使うとなると難しい。


その後は、髪の長さが異なるマネキンを使いながら、ただただ練習あるのみ。不器用な自分が情けなくなるほど、何度も繰り返す。技術を上げるということは、一朝一夕にはならず。日々の積み重ねなのだなと改めて思います。



マネキンに慣れてきたら、自分ひとりでもできる夜会巻きの結い方を教えてもらえます。浴衣など気軽な和装の時に役立ちそう。


今回は特別に、日本髪の仕上げにも挑戦させてもらうことに。



最後に、瀧島さんに、美容師としてのやりがいを伺ってみました。「一人一人を思ってヘアスタイルを決めること。服装、雰囲気、仕草など、すべてを総合的に見て、好みや似合う髪型を考えます。そのように個人に向き合って、笑顔が見られた時が、一番の喜びを感じる瞬間ですね」。
完全なるオーダーメイドの世界。顔立ちや個性がそれぞれ違うように、髪型もまたひとつとして同じには仕上がらない。一人一人を見つめ、その美しさを最大限まで引き出すことにこの仕事の真髄があるのです。

仕事旅行社を通じて出会った髪結いのお仕事。お客様が明確なオーダーを出せず悩んでいる時も、その意図とゴールを読み取って、きちんと打ち返す。それは確かな技術と経験をもとにしているからこそできること。仕事において自分を支えてくれるものは、真正面から仕事と向き合ってきた時間なのだなと改めて感じた旅でした。
そしてまた、美しくも希少な日本髪を結うことのできる数少ない美容師さんとして、この技術を継承していってほしいと切なる願いが生まれた旅でもありました。
今回の旅のおかげで、私の技術も少〜しばかり上がった気がするので、自宅でもお客様(娘)のヘアスタイルの要望にきちんと応えられるよう、引き続き経験を重ねていこうと思います。
白石亜希子(Harumari TOKYO編集部)=取材・文
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