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東京・夜こそ行きたいカフェ事情

飲みに行った帰りや時間つぶしでなく、敢えて、夜こそ、「カフェに行く」予定を入れたい。そんな魅力的なお店が東京に増殖中。さぁ、夜カフェしに、わざわざ、出かけましょう。

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カフェ? ホテル? 圧倒的に自由な蔵前「Nui.」で夜の世界旅行を

Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE(ヌイ ホステル アンド バーラウンジ)

見ず知らずの人と触れあうことで得られる刺激や非日常感は、日々の暮らしのスパイスになる。ときにはまったく環境の異なる人々と話すことも面白い。図らずも、帰る頃には“友達”が増えているかもしれない。そんなことを体験できる“夜カフェ”が、蔵前にある。

一見、雰囲気の良さそうなバーのようだ。蔵前の駅からほど近く、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE(ヌイ ホステルアンドバーラウンジ)」のある場所は異彩を放っており、少し離れた場所からでも「あそこだな」とわかる。なんとも言えない賑わいと開放的な空気が漂っている。一見、外国人観光客風の客が多いが、入りづらい雰囲気もない。

外から店内を見てみると、バーカウンターでお酒を買っている外国人やソファー席で談笑しているカップルが目に留まる。オレンジがかった照明のおかげか、温かい空気が流れているように感じる。

異文化交流が下町のバーで楽しめる

ここは実は江戸時代から続く玩具会社の元倉庫をリノベーションしたホステル。日本屈指の観光名所、浅草からほど近い東京蔵前の「Nui.(ヌイ)」。2012年9月のオープン以来、外国人旅行者を中心に多くの人が訪れている。バーのように見える1階のスペースは、ホテルの受付でもありながら、宿泊客以外の誰もが利用できるようになっており、人種国籍を超えてさまざまな人々が集うカフェ&バーなのだ。

宿泊施設の入り口でありながら、カフェでもあり、バーでもある。天井が高いのもあるが、なんとも開放的な空間。それでいて、とても暖かい空気の流れる場所だ。

「カフェとして、バーとして、ラウンジとして使って欲しいこの場所は、みんながリラックスできるようにしたかった。そのために、この江戸時代からある倉庫の内装を、大工さんや職人さん、空間デザイナー、スタッフで相談しながらリノベーションしたんです」と、スタッフの村野さん。

広いラウンジのなかの”止まり木”的存在にもなっているシンボリックな中央の木は、北海道からミ輸送してきたイシナラ。家具もところどころ手作りし、あえてランダムに。型にハマらないラフな雰囲気は、自然と私たちもリラックスできる。気を使わない空間は心までほどけるようだ。

「お店のキャラクターは入口を入って右側にある五角形のテーブルにも表れています。この形だからこそ、座っている全員の顔や、さらにはテーブルの先にある景色が見えるんですよ」(村野さん)。

確かに、このテーブルからだと、様々な位置にいるゲストの笑顔が見られる。夜19時ごろは、まだお客さんもまばらで、ときおり聞こえる笑い声に少し耳を傾けてしまう。

夜が更けるにつれ、徐々に人が増えてくる。すると、「ここ、空いてますか?」そんな会話が始まる。決まった席に着席しているタイプの店ではあり得ないコミュニケーションが徐々に生まれていくのも、なんだか新鮮な気分だ。

「この辺の方ですか?」「観光ですか?」「このお店の、wifiのパスワード知ってたら教えてもらえる?」「どこの国から来たの?」

気づいたら、知らない人との会話が、始まっている。

散りばめられている“会話のきっかけ”。

こだわっているのは空間作りだけではない。食事メニューで人気のマルゲリータは生地から手づくり。本場イタリアからのゲストも納得の味に仕上げた。フードメニューは大勢でつまめるトルティーヤやフィッシュ&チップスなどが基本。

「日本に来たら日本食を食べたいゲストもいるとは思いますが、多国籍を意識して、特定のジャンルに縛られずかつ馴染みやすいセレクトにしました。ヴィーガンにも対応します。オリジナルのビールはバンクベッド セッション IPA。ホステルらしく2段ベッドを意味する名前にし、初対面同士の乾杯にぴったりな軽やかさがありながら、しっかりオリジナリティを感じる風味となっています」(村野さん)

また、バーでの会計はすべてキャッシュオン。ここから、ちょっとした待ち時間にゲスト同士の会話が生まれることもある。

「並んでますか?」「それ、さっき頼んだけど美味しかったよ」と、後ろから声が飛んでくる。

「あれが美味しかったよ! こっちもオススメですよ、なんて会話が生まれたら良いなと思っています」(村野さん)。

Nui.の狙い通り、このキャッシュオンシステムは見知らぬ人から暖かい言葉がかけられる構造になっているようだ。もちろん英語や日本語で各ゲスト同士が自由にコミュニケーションをとるのだが、日本人と外国人の間で言葉が通じず、うまくコミュニケーション取れていない様子だと、英語の堪能なスタッフがフォローに入ることもあるそう。

外国人トラベラーが多いからこそ生まれる、自然発生コミュニケーション

上階のホステルに宿泊するほとんどは旅行者のため、ラウンジに集うのも半数近くが外国人。フレンドリーな外国人が多いため、遊びに来たカフェの一般客や、地元の人などとのコミュニケーションも自然発生している。

「宿泊中の旅行者だけでなく、新しい出会いや繋がりを求める方も多くいらっしゃいますから、ボーダーレスなグループが非常にできやすい環境です」(村野さん)。

店内の一角にはロッジ風にまとめられたエリアが。

「Nui.のラウンジは室内でありながら外にいるような空間を目指して作られました。自然の中、たとえばキャンプ場で出会い、乾杯をしたときに不思議と距離が近くなるような感覚を楽しんでもらいたいと思っています。ただ、そういった開かれた場所の中でも、対面でゆっくり話すようなスペースが欲しい。そういった意図で作られたのがこのエリアです」(村野さん)。

また、お一人様でも座りやすいのがキッチン前のカウンター。時間を持て余していそうなゲストがいるなら、「お隣良いですか?」と話しかけてみるのもあり。一人同士の繋がりが広がっていき、みんなでテーブル席に移動することだってあるのだとか。

どんな風にでも。“過ごしたいように”過ごす、圧倒的な自由

アメリカやドイツ、オーストラリア、台湾など、平日でもたった一晩でたくさんの国の人々と触れ合える貴重な空間。週末はさらに賑わい、フレンドリーなムードも高まるそう。月に1〜2回開かれるポップアップやワークショップ、ライブなどのイベントに参加するのが良いかも。より自然な形でコミュニケーションがとれるはず。

お酒を飲むもよし、ご飯を食べるもよし、ただPCを広げて作業している人もいる。宿泊客だからかパジャマみたいな格好の人もいるし、仕事帰りのスーツの人もいる。なんだ、どんな過ごし方もありなんだな。

“自分らしさ”を徹底的に肯定してくれながら、緩やかに誰かと繋がれる仕組みがそこにある。

“機械よりも自らの手を、正確さよりもそこに居る人の意志を大切にしたい”との思いを込め、”手縫い”から名付けられた「ヌイ」。触れ合いを決して強制はせず、黙々とPC作業するゲストも当たり前に存在する自由な空間は、どんなニーズでも受け入れる懐の深さが感じられる。

肩の凝らない会話が欲しくなったり、新しい価値観に触れたくなったりしたら、蔵前まで足を伸ばしてみるのがおすすめだ。

 

 

 

取材・文:金井幸男

撮影:工藤直人