植物や花に囲まれる暮らしに憧れはあっても、自分の家の中でそれを実現するのは難しいもの。だからこそ、花屋のような色とりどりの空間に、人は惹かれるのだ。帰宅前のほんの短いその間だけでも、秘密の花園に身を置いてみよう。まるで自分までその美しい景色の一部になれそうだ。
代々木上原駅から徒歩2分ほど、井ノ頭通り沿いに建つ「終日one」は、店頭にブーケや観葉植物が置かれ、表から建物を見ると完全にフラワーショップだ。しかし上を見上げれば、そこには“終日 BEER COFFEE FLOWER”のフラッグが掲げられている。
そっと大きなガラス扉をのぞいてみると奥の方には人で賑わっている様子が伺える。そう、ここはフラワーショップとカフェ、ビアバーの3業態が同居する珍しいスポットなのだ。
元々は独立した個々の店舗で営業していたというが、それぞれのオーナー同士が友人だったことから一緒に店を始めることになったのだという。
店の扉を思い切って開けると真っ先に目に飛び込むのは、たくさんの花やグリーンたち。通常のフラワーショップでは中々お目にかかれない、珍しい色や形の植物も目立つ。色鮮やかな花々が、都会の味気ない景色をぐっと異世界に誘ってくれる。
生花ならではの香りがほのかに漂い、視覚だけではなく、吸い込む香りと共に身体の中まで満たされていくのを感じる。天井も高く、開放的な空間に頭の上からハンギングされた植物は柔らかな照明に照らされ、まるで花園の中にいるかのようだ。
フラワーショップのスペースから奥に歩みを進める脇に見えるこちらは17時までの営業だ。エスプレッソマシンは閉まってしまうが、ドリップコーヒーなら17時以降も提供してくれるのが嬉しい。
そして奥に広がる空間がビアバー。ハイテーブルを囲み、それぞれが気のおけない仲間との夜時間を思い思いに過ごしている。お酒を飲んでいるテーブルも、カフェを楽しむテーブルもあり、程よくガヤガヤしているのがまた心地よい空間になっている。
大きなテーブルのカウンター席は外が見えるように配置され、隣との間隔も広いのでおひとりさまでも気兼ねなく過ごせる配慮が感じられる。カウンターとはいえそこは「終日one」。森の中にいるような装飾や、テーブル上にはセンスのいい一輪挿しが並んでいる。
電源やWi-Fiも完備されていることからパソコンで作業をする人もいるというが、オフィスにいるよりもなんだか心に余裕を持てそうだ。PC作業もここでなら悪くないかもしれない。
店内全体はセンスを感じる打ちっ放しのコンクリート壁だが、木で統一されたインテリア、また手書きの黒板メニューとあたたかみを感じられるポイントが随所に散りばめられている。その雰囲気が3業態共通しているので、それぞれが分断されることなく、気持ちよく繋がっている。店内にいる方にも、違和感がない。
フラワーショップ脇の階段を登るとテーブル席が3席ほどのロフトのようなスペースも。吹き抜けになっており、実は窓から小田急線が走っているところも見える隠れビューポイントだ。迷わずこの席を狙って、夜の景色を楽しみたい。
看板メニューはなんといってもクラフトビール。大阪の箕面地方で生まれた【箕面ビール】をはじめ、全3種類の生ビールを常時用意。フルーティーで飲みやすい、定番のピルスナーをはじめ、樽毎にラインナップが変わるので通う毎に新たな味に出会えるチャンスもある。
ゆるめのフォントで“終日”と記されたオリジナルグラスに注がれたビールから「お疲れ様〜」と言われているようで、なんだか心が和む。口に運ぶと滑らかな泡とキリッとした喉越しを楽しめ、幸せな瞬間を堪能できる。
ビールにあわせる手作りのおつまみは、軽めにサクサクと食べられる【燻製たくわんとマスカルポーネ】、そして日本人の口にあうようこだわったという【フィッシュアンドチップス】がおすすめだ。
もちろんカフェ利用の人のためにソフトドリンクも、多彩にラインナップされている。人気だという【メロンクリームソーダ】。植物や花々に囲まれた美しい空間に置かれた、これまた美しい飲み物は、とても絵になる存在。炭酸の泡を眺めてぼーっとしてしまう時間は至福の時だ。
カフェ利用といっても、ルーロー飯、かすうどんなどお腹をしっかり満たす食事系メニューも充実している。ドリップコーヒーやスイーツも準備されており、しっかりした“食事処”としての機能を果たしている。
和洋折衷、バラエティ豊かなドリンクとフードをその日の気分で自分が欲するがままにテーブルに並べながら、ふと顔をあげると色鮮やかな花々やグリーンが目に入る。好きな飲み物と食べ物を持ち寄る、まるで夜のピクニックに来たかのような気分を味わうことができるのが「終日one」の醍醐味でもある。
時間がない時はカウンターでサクッと一杯、少し余裕のある夜はロフトでゆったり過ごす。お気に入りの花をブーケにして持ち帰り、心の余裕を自宅で取り戻すのもいい。誰と来ても、もちろんお一人さまでも、どんな状態でも、帰宅前に足を運べば一日の疲れをリフレッシュできる。枯れかけた心と身体に栄養をくれる、とっておきの秘密の花園だ。
取材・文:森田文菜
撮影:きくちよしみ