ファストフード店でおしゃべり、ゲームセンターでストレス発散、学生時代の「放課後」は仲間と一緒に過ごすだけで、とにかく楽しかったもの。そんな懐かしい時間を、大人になった今でも味わえるカフェがある。『私立珈琲小学校 放課後HOKAGO』は、仕事を終えたらみんなが集まり始める、まるで大人の秘密基地だ。
代々木公園と代々木八幡駅、両駅から徒歩3分ほどと駅からほど近い路地裏の一角。大きな通り沿いではなく、路地を入って一番奥に立地しているため、一見、見えづらいところにカフェがある。まるで“離れ”のようだ。
あかりの灯った場所を覗くと、「放課後」の文字。
温かみのある照明とガラス張りの建物で店内の様子が見えるため、決して入りにくい雰囲気ではない。古着屋さんのような雰囲気だが、ここはカフェだ。
入り口のネオンに吸い寄せられるようにドアを開けると笑顔で出迎えてくれたのは、店長の石津さん。またの名を“担任”の石津先生だ。
『私立珈琲小学校』というユニークな店名は21年間小学校の先生をされていた代表の吉田さん(またの名を吉田校長)に由来するもの。以前、代官山の“本校”で吉田校長にも話を伺ったが、本校(代官山)、音楽室(原宿)に続く学校プロジェクトの第3弾(3店舗め)が「放課後」となる。
石津先生が立つ店内のカウンターテーブルはさながら教壇のようで対面に椅子やテーブルが並び、まるで小さな教室のよう。
「僕は給食係かな」「私は学級委員?」など、居合わせた方たちからやさしい声が飛んでくる。学校にまつわる呼び名を耳にすると、学生時代に戻ったかのようなワクワク感を覚えるから不思議だ。
「放課後」は、ライフスタイルと珈琲がテーマのカフェ。それもそのはず、カフェのスペースと、古着や雑貨などのスペースがちょうど半々くらいの不思議な空間だ。一見するとやはり古着・雑貨屋さんに見えるかもしれないが、漂うコーヒーのいい香りは紛れもなくカフェのそれだ。
「放課後のようにふらっと寄ってもらってコーヒーを飲むついでに洋服や雑貨、仲間に出会ってもらえたらいいなと思ってます」と石津先生が語りかけながらおすすめのアメリカーノを作ってくれる。
手動レバーが特徴的なエスプレッソマシンはレバーを手で細かく調節することで微妙に味わいが変わるのだという。その日その時にしか味わえないコーヒー、その出会いもまた石津先生の計らいなのだろう。
放課後の名物だというカカオニブ入りクリームがたっぷり入った手作りのクッキーサンド。疲れを癒してくれる甘さのクッキーをかじりながらコーヒーを味わえば、一口ごとにすっと一日の疲れが浄化されていく。
不定期で“給食”と呼ばれるフードの提供もあるそうだ。取材時はあいにく売り切れ直後で、給食係が後片付け中…!この給食を目当てに来店する人もいるほど人気なようだ。インスタグラムで提供の日程を知ることができるのでこちらはぜひチェックしたい。
コーヒーを飲んで店内のベンチに腰かけてくつろいでいると「あ、今ロマンスカーが走ってますよ!」と石津先生。ここは小田急線の線路沿い。走っている電車のガタガタという騒音が妙に心地いい。テラス席もあり、昼間は電車好きの子どもには大人気だというが、この近さ、この迫力は大人でも正直興奮する。夜の闇を走る電車のライトが店のガラスにキラキラと反射する。これは夜だけの特別な光景だ。電車が通るたびに変化する明るさと騒音が、この不思議な“分校”の雰囲気をより特別なものにしてくれる。
実は放課後、“外遊び好き”という共通点を持つシェアオフィス『MAKITAKI』が併設していることから、雑貨も古着も、セレクトのテーマは“アウトドア”となっている。
アパレルは一見古着には見えない状態の良さ。男女問わずに着用できるようなアイテムが多く、石津先生の友人のベテラン古着バイヤーがセレクトを担当しているそうだ。嬉しいのは、求めやすいその価格。立ち寄ったついでに出会ってしまったら気軽に購入してしまうだろう。
また雑貨の中でも一際目を引くのがなんと“絨毯”だ。「絨毯は元々遊牧民族が焚き火の下に敷いていたりしていたものなのでアウトドアと紐づくものなんですよ」と石津先生が教えてくれる。主に中東地域の絨毯をセレクトし販売しているショップ「magic carpet」のものを扱っているそうだ。ひとつとして同じものがなく、色や柄も様々で魅力に取り憑かれてしまいそうだ。ペルシャ絨毯といえば超高級品だが、こちらは古着同様価格がお手頃なのも嬉しい。
「絨毯の専門店に入るのはなかなかハードルが高いけれど、コーヒーのついでなら気軽に見られるでしょ?」付かず離れずの距離で見守りながら、さりげなく声をかけてくれる石津先生。先生だけでなく、居合わせた他の人と気になるものについてあれこれ会話をするのも楽しい。大体週に一度は新しい商品が入ってくるそうなので、行く度に新しいものとの出会いがありそうだ。
古着や絨毯を夢中になって見ている間にも一人、また一人と人が集まってくる。どの人とも皆親しげに話をしているのでお店のスタッフの方や友達が集まっているのだろうと想像したら、「みんなお客さんですよ」とのこと。近隣の方もいれば、そうではない人も。いわゆる常連さんたちだ。
「なぜか用もないのに集まっちゃうんですよね」と、みんな笑顔で語りかけてくれる。初対面なのになんとも居心地がよく、それぞれが日々の何かから開放されたリラックスしたムードを醸し出す。この場所に流れる時間と空気は、紛れもなく学生時代の放課後の心地よさだ。ついつい、今日1日の出来事を話したくなる。そして、同じように誰かの「今日1日の出来事の話」を聞く。
お店を出る頃には気持ちがリセットされ、明日への活力が得られるはず。もちろん良いことは自分のことのように喜んでくれる先生と仲間たちがいる。ついついどこかに寄り道したくなる夜はここで無邪気に大人の放課後時間を過ごそう。集まれる場所があるということの安心感は、大人にこそ必要なものなのだから。
取材・文:森田文菜
撮影:きくちよしみ
エリア: | 東京 / 代々木公園 |
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住所: | 〒151-0053 東京都渋谷区代々木5丁目67−8 |
営業時間: |
火曜日 12:00〜20:00 水曜日 12:00〜20:00 木曜日 12:00〜20:00 金曜日 12:00〜20:00 土曜日 12:00〜18:00 日曜日 12:00〜18:00 祝日 12:00〜18:00 |
定休日: | 月曜日 |
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