HOME WELL BEING 行きつけにしたい映画館 アップリンク・浅井隆さんが語る、映画館へ行くとセンチメンタルになる理由
アップリンク・浅井隆さんが語る、映画館へ行くとセンチメンタルになる理由

VOL.9 アップリンク・浅井隆さんが語る、映画館へ行くとセンチメンタルになる理由

映画館で映画を観ることができないなか、映画についていろいろと考える日々が続いています。ミニシアターを応援する連載企画として、前々回は濱口竜介監督に、前回は深田晃司監督に、映画と映画館の想い出についてお話をうかがってきました。番外編3回目に登場いただくのは、アップリンク代表の浅井隆さんです。

アップリンクは1987年に映画の配給会社としてスタート、現在は配給に留まらず、映画の製作、映画館の運営など活動は多岐にわたります。本来なら「アップリンク渋谷」「アップリンク吉祥寺」に次ぐ3館目のミニシアター「アップリンク京都」が4月16日にオープン予定でしたが、新型コロナウイルス禍によってオープンは延期(5月21日予定)となりました。

映画館の臨時休館をどう乗り切るのか、映画ファンのために何ができるのか、その対策のひとつとして浅井さんが考案したのは「アップリンク作品 60本見放題」。アップリンクの配給作品60本以上を、購入日から3ヶ月間観ることができるサービスで、浅井さんがHarumari読者にオススメする映画も観ることができます。

また、4月24日に公開予定だった『ホドロフスキーのサイコマジック』(19)をオンラインで先行上映するなど、新しい試みにも挑んでいます。

©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky/2020年5月22日(金)、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開

「アップリンクは『アップリンク・クラウド』という配信サービスをすでに始めていたので、配信の仕組み的には問題ありませんでした。

)©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky

『ホドロフスキーのサイコマジック』は、全国約30館で上映が決まっていました。配給会社としては、買い付けた映画を映画館で上映しないと成り立たないので、この作品に関しては、オンライン映画館『アップリンク・クラウド』にて期間限定でストリーミング配信し、手数料を引いた額を劇場と配給に分配する企画です」

配給会社として、映画館として、両方の顔を持つ立場だからこそできる企画です。

ちなみに、浅井さんが「アップリンク作品 60本見放題」のなかでHarumari読者におすすめする映画は、グザヴィエ・ドラン監督作『わたしはロランス』(12)。

主人公は、小説家で国語教師のロランス。彼には美しく情熱的な女性フレッドという恋人がいますが、30歳の誕生日を迎えた日、ロランスはフレッドに秘密を打ち明けます。「僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ」と──。

自分らしく生きるとはどういうことなのか、愛する人を本当の意味で愛するとはどういうことなのか、ジェンダーと愛について描いた美しいラブストーリーです。

『ホドロフスキーのサイコマジック』も「アップリンク作品 60本見放題」も、自宅にいながら新作映画を鑑賞できる、映画ファンにとっては何とも嬉しい企画。

しかしながら、全国的にミニシアターの経営が難しくなってきている点においては、配信がすすむと映画館がますます厳しい状況になるのではないか……という不安も。コロナによって課題が浮き彫りになった、向きあわざるを得なくなった。配給も劇場も、両方の立場である浅井さんの心境はどうなのでしょう。

「配給会社の立場としては、コロナの前から、どういう形で映画を観てもらうのかについて区別はありませんでした。映画館の立場としては、やっぱり映画館で観ることで想い出に残る、それが重要で。たとえば、テレビやパソコンの画面で映画を観ても十分な音量もサラウンドもない、スクリーンの大きさに没入する感覚もない。でも、心を動かされることにおいては、映画館もほかも変わらないという考えです」

では、浅井さんが考える映画館で観ることの魅力とは?

「映画館は、映画以外のことも経験として体に刻み込まれて、時間が経つとセンチメンタルな感情になる、それが映画館体験なのかなと。映画館まで電車で行くのか車で行くのか徒歩なのか、そのプロセスも体に刻まれて、誰と観に行ったか、天気はどうだったのか、映画そのもの以外の記憶が加わる。それが映画を観た記憶とつながっていると思うんですよね。まったく知らない人たちと、その映画館でその時間に同じ作品を観る、笑ったり泣いたりする、そういう場ですよね」

記憶をたどっていくと、幼少期や学生時代の映画の思い出がよみがえります。

「子供の頃、親戚の家に行くと8mmの映写機があって、子供だったのでチャップリンだったのかキートンだったのかまでは覚えていないけれど、従兄と一緒に、押し入れのような暗い場所で映画を観たことを、いま思い出しました。それから、高校生にとって映画は決して安くはないけれど、(大阪の)梅田の名画座『大毎地下劇場』に通っていた記憶もあります」

現在、アップリンクは渋谷、吉祥寺、京都に展開。映画館を持つことの背景には、多くの人に観てほしいと思って買い付けた映画を、確実に観たい人に届けるために「どうしても必要だった」と言います。

「配給するうえで、上映する場所は絶対に必要なわけです。でも、劇場側が上映をOKしてくれないと当然のことながら上映はしてもらえない……。であれば、自分たちの上映場所があれば、海外から買い付けた映画を上映まで自分たちの意志でできる。もちろん、配給会社のビジネスとしても映画館は絶対に必要だと思いました。渋谷から吉祥寺へ、吉祥寺から京都へ──吉祥寺はPARCOのB2Fに、京都は烏丸御池駅直結している新風館B1Fに、商業施設とタッグを組んでいます。ミニシアターの運営のノウハウはあるので、この先もいいパートナー(商業施設)と出会えれば全国に展開していきたいですね」

そして、濱口監督や深田監督と同様に、ミニシアター・エイド基金を通して届けられる「映画館を救いたい!」という声援に「こんなにも応援してもらえるなんて……」と驚きと感謝の言葉。基金で集まったお金は、アップリンクにも分配されます。

日本にいながら海外の映画を当たり前のように観ることができるのは、買い付ける配給と、上映するミニシアターがあってこそ。これからも世界の映画に出会えることを楽しみに、映画館の再始動を待ちたいと思います。

*参考情報*

ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid

アップリンク・クラウド
https://www.uplink.co.jp/cloud/

アップリンク作品 60本見放題
https://www.uplink.co.jp/cloud/features/2311/

(取材・文:新谷里映)

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