HOME WELL BEING 行きつけにしたい映画館 自分の世界観をもっと広げよう。深田晃司監督が薦めるGWに観るべき古典映画
自分の世界観をもっと広げよう。深田晃司監督が薦めるGWに観るべき古典映画

VOL.8 自分の世界観をもっと広げよう。深田晃司監督が薦めるGWに観るべき古典映画

思いがけない時間ができたときに、その時間をどう使うのか、どう過ごすのか──。新型コロナウイルスの流行によって、私たちは今、ある意味思いがけない時間を生きています。映画を観たくても映画館には行けない、でも映画は家でも観ることができる。たとえば、気になっていたシリーズものや、なかなか手を着けられなかった映画を観るチャンスでもあります。

「特に若い世代の方には、この機会に古典映画も観てほしいですね」と話すのは、「ミニシアター・エイド基金」のもうひとりの発起人、深田晃司監督。長編5作目となる『淵に立つ』(16)が、カンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員賞を受賞するなど、世界からも注目されている監督です。

古典映画というと、モノクロだったり、時代設定が古くてギャップがあったり、果たしてそこに面白さはあるのだろうか……と思いがち。何かきっかけがないと手にしない映画のジャンルかもしれません。でも食わず嫌いはもったいない! 深田監督が古典映画をすすめるのには理由があります。

「いま観ることができる古典映画の多くは、時間というふるいにかけられて残っている映画です。身も蓋もない言い方ですが、単純に面白い映画に当たる確率は高い(笑)。とはいえ共感しやすい、理解しやすいのはやはり同時代の映画ですよね。でも食べやすいものばかり食べていたら栄養は偏ってしまいます。自分にとって観やすい映画や分かりやすい映画ばかり観ていると映画の幅は広がらないですし、自分の世界観も広がらない。この(自粛の)機会にぜひ自分が生まれる前に撮られたような映画を観てほしいですね」

深田監督と映画の出会いも古典映画だったそうです。もともと父親が映画好きだったこともあり、ものごころがついた頃から、家にはVHSが500〜600本近くあり、中学時代にはケーブルテレビに映画専門チャンネルが出始めて、それにも父親が加入。常に映画が身近にある環境でした。

「VHSやケーブルテレビで映画、観まくっていましたね。中高時代はそもそも映画を観るお金もないので、年に1〜2回映画館に行けるかどうかでしたが、地元の小金井市には市が主催する市民映画鑑賞会があって、月に一度、16mmフィルムで映画を無料で観ることができました。映画を選定している人がかなりシネフィルだったようで、小津安二郎、黒澤明、溝口健二、成瀬巳喜男、内田吐夢、洋画もアンジェイ・ワイダの作品がかかったり、アンドレイ・タルコフスキーの『僕の村は戦場だった』、ジャン・ルノワールの『河』、ミハイル・ロンムの『一年の九日』……本当にすごいラインアップ、素晴らしい作品ばかりでした」

10代半ばで名作の数々と出会った深田監督ですが、彼にとって職業としての映画という世界は“遠いもの”だったそう。そんな深田監督が映画の世界に足を踏み入れるきっかけとなったのは、大学時代にミニシアターで手にした“一枚”のチラシでした。

「大学に入ってからはアルバイトをして、映画館で映画を観られるようになって、大学2年のとき渋谷のユーロスペースに特集上映を観に行ったんです。そこで映画美学校のチラシが目に留まった。そのとき初めて映画の学校があることを知って、驚きました。『映画は遠いものではなく、映画の制作側に行く方法があるんだ!』と発見したと同時に、自分ならこういう映画を作ってみたいというものも浮かんできましたね」

そこから映画の世界の扉を開き、いま映画監督として生きています。冒頭で触れた『淵に立つ』以外にも、ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞した『ほとりの朔子』(13)、平田オリザ原作の『さようなら』(15)、インドネシアを舞台にした『海を駆ける』(18)、最新作には『よこがお』(19)、いずれも王道ではない展開、考えさせられるテーマ、ひと筋縄ではいかない物語に、とにかく引き込まれます。

「人間は価値があるんだ、ということを前提に描くのではなく、すべての人間は等しく価値はない、というところから物語を描きたい。それが僕のなかで強くあるんです」

その捉え方、描き方は、深田晃司監督らしさであり、映画を作るうえでも古典映画に大きく影響を受けていると言います。ほかにも特別な作品として挙げるのは、エリック・ロメールの『緑の光線』(86)。

『緑の光線』は、恋愛喜劇の巨匠と言われるエリック・ロメール監督作品で、1986年ヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞しています。

物語の舞台は夏のパリ。主人公は秘書として働くデルフィーヌ(マリー・リヴィエール)。ヴァカンスに友人とギリシャ旅行を計画していましたが、友だちの都合が悪くなりギリシャは断念……別の女友だちとフランス北西部のシェルブールへ行くことになります。

デルフィーヌのヴァカンスを通して描かれるのは、即興で紡ぎ出されるリアリティある会話、フランスの美しい風景、彼女が求めている恋愛について……。この映画の特徴のひとつは会話劇の撮影方法です。物語の構成は決めつつもセリフは一切用意せず、セリフや演技は登場人物が各場面の状況に合わせて即興で生み出していったそう。その世界観に深田監督もハマった──。

「高校の終わり頃にケーブルテレビで観たのが最初で、大学に入ってから名画座でも観ていますが、この作品に惹かれる理由は──現代的なんですよね、人と人との感情、距離のとり方が。また、何か障害を乗り越えて主人公が頑張ったすえに物語が完結するのではなく、主人公の目の前の一瞬一瞬が映画として独立しているような、その一瞬一瞬によって作品世界が完成し更新されていく。結末にしても、一歩引いた目線でものごとを映し出していて、その捉え方はいま観てもやっぱり優れて現代的だなと思います」

いつの時代も男女の恋にまつわる感情は変わらないからこそ、深田監督が「現代的」だという登場人物たちの距離、主人公が自分自身と向き会う孤独という距離は、時代を経ても輝き続けるのでしょう。

『緑の光線』は、ミニシアターや単館系の映画を中心に配信している「ザ・シネマメンバーズ」で観ることができます。5〜6月はエリック・ロメール特集も。気になる人はこのゴールデンウィークにぜひチェックしてみてください。

 

そして、深田監督をはじめ世界中の映画人は今、コロナによる映画館の危機と向きあわなくてはなりません。どう向きあうのか、ひとつの方法が「ミニシアター・エイド基金」でした。

「集まっている金額にとても驚いています。驚きと同時に、ミニシアターの存続だけでなく映画そのものが応援されている、多様な映画を求めている人たちがこんなにも大勢いることを知って、作り手のひとりとして本当に励みになっています。いま世界中の映画監督がコロナによってもたらされた状況をどう映画にするのかを考えているはずなので、来年再来年はきっと面白い映画が出てくる。僕自身も、家から出ずに撮れる映画はないかなと考えている最中です」

深田監督が思案中だというその物語を、映画として、映画館で鑑賞できることを楽しみにしつつ、今はさまざまな映画を観ることで自身の視野と世界観を広げたい、そう思います。

次回は、アップリンク代表の浅井隆さんが登場します。

ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid

 

取材・文:新谷里映