他の施設にはない洗練された空間が、オープン当時から話題となっている、東京・入谷の「ゲストハウスtoco.」や、蔵前の「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」。旅行者が泊まれるゲストハウスにカフェやバーラウンジを併設しており、国内外から人が訪れていた場所だ。しかしこれらの施設もまた、このコロナ禍で大きく影響を受けたホテル・飲食店の一つ。2ヶ月の休業を経て、これからをどう見据えているのか、各施設を手掛けるバックパッカーズジャパンの代表・藤城昌人さんに話を聞いた。
「まさかこんなことになるとは想像もしていませんでした」
そう言ってインタビューに応えてくれたのは、Backpackers’ Japan(バックパッカーズジャパン)代表の藤城さん。実はこの4月、創業者であり前代表の本間氏に代わって代表に就任したばかりだ。
「実は代表交代は昨年の秋には決定していました。それもあり、コロナ禍でのタイミングだったのは、本当に偶然のことです。創業してすぐ東日本大震災を経験していて、10年に一度はこういった大きな局面を迎えると社内でも良く話をしておりました」
2010年2月に創業したバックパッカーズジャパンは、ゲストハウスやホステルなどの宿泊事業、カフェやバーといった飲食事業などを行ってきた会社だ。「あらゆる境界線を越えて、人々が集う場所」をコンセプトに、古民家やビルをリノベーションし、訪れる人が心地よく過ごせる空間を生み出してきた。
現在は、東京の「toco.」、「Nui.」、「CITAN」、そして京都に「Len」といった4つの施設があり、藤城さんはこの全ての店のオペレーションを統括してきた人物でもある。
そしてこれらの施設はいずれも、開放感溢れるハイセンスな空間で、外国人の旅行客にも人気があった。だからこそ、今回のコロナは大打撃だったという。
「うちは宿泊客の7割くらいが海外の方だったので、2月の下旬くらいから徐々に外国人ゲストが減り始めて、3月から通常の4割くらいまで減少しました。海外から来られる方は4月と5月はほぼキャンセルになってしまいました。今回は大きく影響を受けましたね」
と、しみじみ語る藤城さんからは、ホテル・飲食業の厳しい状況が感じ取れる。4月に休業した各施設は休業要請が緩和された5月下旬から、カフェやバーの営業をスタート。6月からは段階的に宿泊業も再開した。カフェやバーダイニングでは席を間引き、ソーシャルディスタンスを保てるようにするなど、感染対策を行ったうえで営業をしているという。藤城さんはこの状況を受け入れながらも、次の対策に動き始めている。
「海外からの旅行者は、しばらくどうなるかわからない。だから今は、もっと日本人の方に来ていただけるよう、新しいサービスを模索している段階ですね」
これまで、訪日客の利用が多かったゲストハウス事業。それを、日本国内の人たちにも利用してもらうため、今新たなプランを打ち出しているのだ。まだお試しの段階ではあるが、マンスリー利用や、団体での利用、長期のステイなど様々で、ニーズを見ながら定着させていく予定だという。
また、新たな企画もスタートしている。それが、日本橋のCITANと京都のLenで始めたオンラインイベントだ。京都は収録だが、日本橋では2週に一回、リアルタイムで配信。ラウンジや、空いている客室を利用して、アーティストやクリエイターを呼んだイベントを開催。初めは、コロナ禍の休業期間を乗り切るための苦肉の策だったが、今は、オンラインに新しい可能性を見出していると、藤城さん。
「例えばCITANなら、ライブやDJイベントを行うにしても、収容できるのは150人までと人数に限りがあります。でも配信なら、人数関係なく届けることができる。それに、配信を見てくれた方の中には地方の方もいたので、今この状況のなかで、店に来づらい方にも楽しんでいただきやすくなるのかなと」
4月から始まったイベントの評判は上々だ。 CITANでは、リアルタイム配信にかかわらず、最大1,000人ほどの観客が見てくれているという。今後もオンラインイベントは継続していく予定で、直近では毎週DJを配信するイベントなども考えているそうだ。
「大変なことももちろんあります。配信をする際に必要な設備を揃えるのが結構大変だったり、配信が止まるトラブルもあったり。オンラインイベントは新型コロナウイルスの影響がなければやらなかったことなので、可能性が広がったとは感じています」
そして、これまでとは異なる事業にも取り組もうとしている。
「この状況になって、一番に案じたのは会社の未来。ホテルや飲食だけではない、違ったことをやらなければいけないと強く感じて、新規事業のアイディアをスタッフから募集したんです。
施設が休業していて考える時間があったからか、有志にも関わらずたくさん参加してくれて、多くのアイデアが集まりました。ビールのブルワリー、コーヒーのロースター、キャンプ場の企画とか。集まった中から1つ2つ、新しい事業を始められたらと考えています」
バックパッカーズジャパンが手がける、新しい事業。一体どんなものを見せてくれるのか、今からワクワクせずにはいられない。今後の発表が今から楽しみである。
さらに藤城さんは、新たな挑戦の裏で、改めて気付かされたこともあったと語る。
「この場所に来ることを楽しんでくれている人の多さに、改めて気付きました。ラウンジの利用者には、ローカルの常連さんがいるんですが、その中でコミュニティができていたりする。だから休業前日も人が自然と集まってきて、ここで会えなくなるのを寂しがっていました。休業中も、再開して欲しいという要望は多かった。休業が明けてからも、泊まる人が誰もいなくなった建物の中で、コーヒーや生ビールを片手に久々に会う人たちとの再会を喜んだり、あるいはスタッフに顔を見せるためだけに立ち寄ってくれたりと、唯一ラウンジだけは町の人たちで毎日賑わっていました。そんな宿泊施設、なかなかないですよね(笑)」
ゲストハウスだけでなくカフェやバーとしても利用できる「Nui.」や「CITAN」は、この場所に来れば誰かと会える。例え友人同士でなくても場所を共有することで寂しさが解消される……、バックパッカーズジャパンが手がける施設は、人々の居場所になっていたのだ。外出自粛期間を経て店が再開した時は、これまで統括として各店を見守ってきた藤城さんにとっても、大きな喜びを感じた瞬間だったという。
「Nui.が再開した時に、人が自然と集まってきたのを見て、場所が生き返ったって思いましたね。暗くシーンとしていた場所に活気が戻ってきたのが、本当に嬉しかった」
以前のように店に人が集まってきたことで、嬉しさや安心感を覚えたという藤城さん。人とつながることのできるこうした場所が求められていると実感したことで、コロナ禍で業界に逆風が吹く中でも、未来をしっかり見据えることができた。
「オンラインが浸透しても、リアルな場の魅力は無くならない。絶対に残ると思っています。今は東京、京都にしか施設はありませんが、今後、こういった場所を全国各地、そしていずれは海外にも展開していければと思っています」
リアルの良さを熱く語ってくれた藤城さんは、実は大の旅行好きでもある。最後に、今一番行ってみたい場所を聞いてみた。
「タイのタオ島という場所があって、そこでダイビングをしたいですね。今はコロナの影響で海に人や船が少ないみたいで、澄んで見えるらしくて。早く旅に出たいです」
コロナ禍で浸透したオンラインのサービスは、私たちの生活をより良くしてくれた。しかしネット一つであらゆる体験ができるようになっても外に集いたいと思うのは、リアルの体験や場所から得られるものの大きさを知っているからなのだろう。さらなる進化を遂げていくバックパッカーズジャパンが、今後どんな場所を作り出してくれるのか、期待したい。
※掲載している店の画像は過去のものです。
エリア: | 東京 / 浅草・蔵前 |
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住所: | 〒111-0051 東京都台東区蔵前2丁目11−3 |
電話番号: | 03-6240-9854 |
営業時間: |
月曜日 8:00〜1:00 火曜日 8:00〜1:00 水曜日 8:00〜1:00 木曜日 8:00〜1:00 金曜日 8:00〜1:00 土曜日 8:00〜1:00 日曜日 8:00〜1:00 祝日 8:00〜1:00 |
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