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秋空の下、上野公園へ。「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」の楽しみ方

VOL.58 秋空の下、上野公園へ。「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」の楽しみ方

春夏秋冬の花が表現された7点の日本美術の古典と、乃木坂46が演じるビジュアルアートを重ね合わせて紹介する意欲的な展覧会「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」が上野の東京国立博物館・表慶館にて開催中。これは、美術展か、エンタメか。

目次

    夏の日差しが徐々に薄らいで秋空を感じるこの季節。上野公園の散歩には最適なタイミングである。上野公園には、東京都美術館、国立西洋美術館、そして東京国立博物館とオーセンティックなアートを嗜むにふさわしいパビリオンが林立していて、秋のこの季節には例年、実力あるキュレーターなどによる「骨太」な企画展を愉しむことができる。

    が、今年は「乃木坂46」である。日本が世界に誇る美術作品と、現在の映像作家によるコンセプトコラボ、というところまでは想像の範囲だが、その被写体として乃木坂46をアイコンとして起用するという試みは、斬新、というかあまりにチャレンジングな気もした。これは美術展か、エンタメか? 今回は、この意欲的な展覧会の楽しみ方を3つのポイントでご紹介しよう。

    1.映像作品として愉しむ

    乃木坂46にそれほど明るくない筆者でも彼女たちの活動は他のアイドルグループと一線を画すクリエイティブな取り組みをしている、とイメージしている。デビュー当時から、操上和美や堤幸彦といったレジェンドカメラマンや演出家がMVを手がけ、その作品性は推しがいなくても、メンバーのことをよく知らなかったとしても鮮烈な印象を残す。映像、スチール界の巨匠たちによる審美眼で被写体として、自由に多彩に表現される彼女たちの世界観は、シンプルに美しく、楽しく視聴することが出来る。
    そんな、クリエーターとの相性が抜群の彼女たちが今回も気鋭の映像作家とコラボして作品を創っているところが1つめのポイントだ。

    今回の展覧会で参加した映像作家は、東市篤憲、神谷雄貴など最近の乃木坂46のMVも手がけているディレクターや池田一真らCM界で活躍する映像作家など比較的若いクリエーター陣で、その演出のポップさや色彩感覚で、いい意味で今どきの映像美を体現した作品群となっている。その中でも、長さ7メートル超の廊下状の構造体の中で、掛け軸と相対する形でスクリーンに映し出される池田一真の作品は白眉だ。
    明治、大正、昭和にかけて活躍した巨匠・上村松園筆による「焔(ほのお)」(複製)は、源氏物語に登場する六条御息所の生き霊をモチーフにした作品で、その妖艶な佇まいで纏う着物には、鮮やかな藤の花とモノクロの蜘蛛の糸が絡み合っている。その柄や、振り返る女の表情、さらに全体として女性らしいなめらかで曲線的な動きを感じる構図が「妖しさ」を際立たせる名筆である。その「妖しさ」にインスピレーションを受けた池田の作品では、パフォーマーとして遠藤さくら(乃木坂46)が艶めかしい舞踏を舞いつつ、その衣装、長い髪、おぼろげな空気感のある照明が相まって、映像美としての妖しさを増幅させている。生き霊であったり幽霊の画というのは、ある意味日本の伝統芸であり、その妖艶さの歴史を積み上げながら、現代の映像作品として昇華させたようなとても見応えのある映像なのだ。そして、掛け軸と対になる形で鑑賞するというスタイルも面白い。

    2.空間を愉しむ

    ところで、展覧会の舞台となっている東京国立博物館には、さまざまな時代に建てられた5つの建物がある。その中でただ一つ明治時代に建てられたのが、今回の緑青(ろくしょう)色の丸屋根を持つ表慶館だ。表慶館は、皇太子殿下嘉仁親王(後の大正天皇)の御成婚を祝って、市民からの寄付金によって奉献された。設計は、宮内省の建築家・片山東熊によるもので、日本人が設計した洋風宮殿建築の極みとして、1978(昭和53)年には重要文化財に指定されている。
    外観に石を張った煉瓦造りの洋館は、中央に大ドーム、その両側に左右対称の小ドームが配置され、建物内に入るとドーム型の天井まで吹き抜け空間が広がり、ドームの天井からやわらかな光が射し込み荘厳な雰囲気を創り出している。西洋化を推し進める当時のカルチャー、息遣いを感じるこの建築物は、そとも、なかも、ゆっくり散策するだけでも愉しめる。
    そんな非日常的な空間で設置された各種の作品は、表慶館内の各部屋で太い構造体によって囲われたインスタレーションとなっており、ひとつひとつの空間演出がまた面白い。
    菱川師宣筆「見返り美人図」では、空間内に5台の大型ディスプレイが羅列され、そのひとつひとつにパフォーマーの賀喜遥香(乃木坂46)が演じるストーリー性のある映像が映し出される。鑑賞者は、それらを見ながら構造体を縫うように歩き続け、最後に、そのストーリーの完結というような趣で「見返り美人図」に相対するのである。その空間構造、映像の体験方法がなんとも面白い。また、天高の部屋に響く音響も秀逸だ。明治来のアシッドな空間の中に、ごつい黒の構造体。そして、美しい掛け軸に脳内を貫通するシャープな音響、それらの組みあわさった空間にいるだけで非日常的な時間をすごせる。

    また、エントランスの中央ドーム内の映像も壮観だ。展覧会に入った直後、そして鑑賞途中に二階から再びドームの演出をみることができるのだが、下から見るのと上から見るのでまた印象が違って面白い。ぜひ注目して欲しい。

    3.日本の伝統美を知るきっかけに。

    今回展示されている日本美術は、どれも日本を代表する画家による超メジャーなものばかり。乃木坂46きっかけで訪れたにしても、ぜひその日本古来の作品にも注目したい。
    ただ、今回は、そのほとんどが複製である。複製といってもその再現性は素晴らしく、それはそれで見応えがあるのだがどちらかというと「ホンモノを観る」かどうかではなく、日本美術の古典の鑑賞方法を身近にするという点でこの展覧会の意義は深い。
    とはいえ、「古い画」はそれを見慣れない人にとってはあまりに想像力を刺激しない。その点今回の企画では絵画のコンセプトにインスピレーションを受けた現代の作家の映像作品があり、その身近な世界観を感じることができるから、絵画の印象も少し深くなる効果があると思う。
    というのも、絵画鑑賞の面白さは、「視覚と記憶のすりあわせ」であると思っている。結局、わたしたちが何かを観て感じるという脳内作業は、自分の経験や記憶の中でしか再現されないものだ。例えば、画の中の女性の表情があったとして、それを見てどう感じるかは、観る人のこれまでの女性の顔に対する経験や記憶の中から再構成される。だからこそ、数百年前の作家が描いた女性の表情が、本当はなにを意味しているのか、どんな意図があるのか、その「答え」はさして重要ではなく、今いる自分自身がその絵になにを感じるかを楽しむものだ。その点で、身近なデジタルアートがあることによって自分の感性と記憶が活性化され、なんとない絵画の中にも、機微やニュアンスを感じられるようになるし、実際この展覧会のねらいはそこなのではないかとおもう。

    さて、この展覧会は美術展か、エンタメか? 私なりの答えは、エンタメ、ではあるけれど、日本美術を教科書的な知識でしか持ち得ていない人にとってはその深い世界の入り口に立たせてくれるチャンスかも知れない。乃木坂46ファンはもちろんだが、そうではない人こそこの一風変わったインスタレーションを楽しんでみて欲しい。

    春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃⽊坂46
    会期:2021年9月4日(土)〜11月28日(日)
    会場:東京国立博物館 表慶館(東京都台東区上野公園13-9)
    時間:9:30~17:00 金・土曜は20:00まで(入館は閉館の60分前まで)
    *本展は事前予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。

    公式サイト:https://nogizaka-fourseasons.jp