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渋カフェめぐり in 中目黒&代官山

雰囲気のいいカフェは沢山あるけれど、雰囲気だけに流されている自分に我に返ることもある。コーヒー・空間・ホスピタリティ。作り手たちのこだわりに溢れた“渋い!”カフェを見つければ、カフェがもっと好きになる。

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中目黒と代官山にコーヒー文化を定着させた、‘流儀’という名のカフェ

CAFE FACON COFFEE STAND(カフェ・ファソン コーヒー スタンド)CAFE FACON ROASTER ATELIER(カフェ・ファソン ロースター アトリエ)

実力派のコーヒースタンドが点在する中目黒&代官山エリア。ひと昔前までは、コーヒーが主役の店はほぼなかった。その流れを変えたのが「カフェ・ファソン」である。

いくつもの縁が紡いだ味わい深いコーヒー人生

誕生は2008年。サードウェーブコーヒーはおろか、スペシャルティコーヒーだって、一部の人にしか知られていなかったころだ。ただ、本当にいい店は放っておかないのが中目黒という街。やがて人気に火が付き、2014年には代官山にも出店する。

代官山にある「カフェ・ファソン コーヒー スタンド」

もっと、お店やコーヒーについて話を聞きたい。そんな想いを伝えると、代表の岡内賢治さんが応じてくれることに。うかがったのは、代官山の「カフェ・ファソン コーヒー スタンド」。近くにある、同店のアトリエも紹介してくれるという。なんたるふところの広さ!

岡内賢治店主

もともとは会社勤めで、人事を担当していた岡内さん。コーヒー好きの上司がいて、いろいろな店に連れて行ってもらったのが今に至るきっかけだ。最初は雰囲気やカップなどに興味を持ち、やがて味にも。次第に“自分の手で作ったもので、人に喜ばれる仕事がしたい”と思うようになり、脱サラしてコーヒーの道へ。

「当時20代後半で、未経験だとなかなか働き口がなく…一年くらい探してようやく、石神井公園にあるコーヒー専門店で働けることになりました。」(岡内さん)

そのカフェの上の階にあったイタリアンの名店「クラッティーニ(現在は東銀座)」の倉谷シェフと出会ったことが、励みになったと言う。「いつか倉谷シェフと一緒に仕事ができたら、と心に誓い、目標にして自分を磨いてきました。」と語る岡内さん。20年たった今、夢は現実となり、「クラッティーニ」をはじめ多くの名店にコーヒー豆を卸している。

数年後、岡内さんは原宿の老舗「アンセーニュ・ダングル」の門を叩く。ここでネルドリップ抽出や接客スタイルにこだわりを持つ名店のいろはを徹底的に学ぶ。だが、当時まだ少なかった自家焙煎のカフェへの想いは増すばかり。コーヒー人生を志したときからの“焙煎をやりたい”という信念が、「カフェ・ファソン」誕生の礎となる。

ファソンとはフランス語で「流儀」を意味する

焙煎の開拓者から教わったコーヒーのフロンティア精神

開拓というものは、難儀の連続だ。名門で修業を重ねた岡内さんでさえ、焙煎は未知の世界。しかしだからこそ、その情熱に心を動かされた巨匠がいる。自家焙煎コーヒーの重鎮、「堀口珈琲」の堀口俊英マスターだ。

「特別に、2日間だけ研修させてもらえることに。といっても、『見て覚えて』って(笑)。焙煎ってそう何度もやるわけじゃないんで、計10回の焙煎を目に焼き付けるように覚えましたね。でも、堀口さんは出店地や焙煎機の相談なども親身になってのってくれました」

代官山限定の「代官山ブレンド」400円。街歩きして冷めてもおいしく飲めるよう、酸味や甘味、コクのバランスを絶妙に配合している

中目黒を選んだ理由は、修業時代に住んでいて気に入ったから。当時このエリアは、今ほどコーヒーに主軸を置いたカフェは少ない。立ち上げまでの道のり、そして出店してからも、たくさんの障壁があった。今のにぎわいがウソのように、当初はお客さんもまばらだったという。しかし、自家焙煎の芳しいコーヒーに、多くの人が吸い寄せられる時間はそうかからなかった。

フードやスイーツも絶品ばかり。「まほうのコーヒーゼリー」500円は小豆を使う意外なおいしさが魅力だが、文字通りの不思議な現象も楽しめる。ぜひお試しを!

スタンドとロースターの両輪で代官山を盛り上げる

代官山に出店した理由は、コーヒー豆の卸をさらに展開していきたかったから。当初はより都心部の物件も探していたが、なかなか希望にそぐわず、結果的に隣町の代官山となった。

「実は、最初はアトリエだけにする予定だったんです。でも、このコーヒースタンドの場所もすごく気になって。悩むぐらいなら両方でやっちゃおうと思って、同時オープンすることにしました」

コーヒースタンドの店内。メニューは豊富で、シングルオリジンは日替わりで3種類が用意されている。中目黒の人気ベーカリー「トラスパレンテ」特注のパンを使ったサンドイッチも好評だ

現在、全3店舗。それぞれの特徴を聞いてみた。

「中目黒の店は、クラシカルな喫茶店と洗練されたカフェの中間。フルサービスでくつろいでいただく、うちの基本の形です。コーヒースタンドは、より日常的な空間。店内でもテイクアウトでも楽しめるカフェですね。アトリエは焙煎の拠点であり、コミュニティサロンとしての顔もあります」

1階はロースター、2階はビーンズショップ&エスプレッソ、3階はカフェ&カルチャースペースで構成される「カフェ・ファソン ロースター アトリエ」。コーヒースタンドから徒歩2~3分の近さだ

オランダ「ギーセン」の焙煎機で、多彩な豆をロースト。中目黒では国産の「フジローヤル」製を使っている

アトリエは1階で注文を受け付け、ドリップならその場で、エスプレッソやラテなら2階で抽出して受け渡すスタイルだ。座ってゆっくり楽しむなら、3階のカフェスペースが利用可能。フード類もあり、それらはコーヒースタンドから持ってきてくれる。

もちろん、コーヒー豆の販売も。産地も煎りの深さも種類豊富で、好みから選ぶことができる

岡内さんは終始おだやかで、にこやかに何でも話してくれた。「焙煎やスイーツのレシピも、聞かれれば同業の方にだって何でも教えちゃいますよ」とまで言う。それも岡内さんの流儀なのだろう。きっとそれはふところの広さと同時に、確固たる自信があるからだ。ひと口飲めば、決してマネできないことがわかるはず。それぐらい、ここのコーヒーはほかにはないおいしさなのだ。

取材・文:中山秀明
撮影:濱田晋