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上京した、君。

何かを掴むために、何者かになるために。“知らない街東京”に来た君の、今から始まる東京物語。君らしい、新しい目線の東京の暮らし方を紡ぐ。

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東京に“おかえり”が欲しい時 ―前編

私立珈琲小学校

目まぐるしく変化する東京の毎日。激しく流れる潮流の中に自分を留めるアンカーのような“変わらずあり続ける場所”が欲しい。上京したらきっと誰もが思うこと。自分だけの自分らしい行きつけ探しの旅がいま始まる。

“何も決めずに来てしまった。
今だ、って思って来てしまった。

この時代、さすがに知っている街だし、何度も来たことある場所だけど、ここがこれから“私の”街になると思うとやっぱり違って見える、東京。
不思議と、これから住むと思うと逆に知らない街であることの輪郭がくっきりしてくるものなのだ。

地元の友達で先に上京している子もいるし、東京きてから決まった職場の人も素敵だし、寂しくはないけどでもやっぱり欲しい。
自分だけの、東京で“おかえり”をくれる場所。

そう、行きつけの店。”

“行きつけ”の概念は人それぞれだ。

家の近所にある、自宅のダイニング気分で通える定食屋。
マスターと喋ったり常連さんと仲良くなっていろいろな話が出来る喫茶店。
逆に、何も喋らなくて良い、誰とも関わらなくて心地よい、を実践できるバー・・・
形は違っても誰しもが自分なりのそんな居場所を見つけたいと思っている。
誰の街でもない東京だから、より強くそう思うのかもしれない。

上京した君、坂本あかり23歳。
彼女が欲していたのは素敵な行きつけカフェ。
条件は3つ。

1、 憧れの街代官山にあること
2、 ちょっとアメリカンな、自分の趣味に合う内装
3、 いろいろな話が出来る”お姉さん店員”がいること

好きな街に行きつけがあるのは、なんだか一歩そこが自分の街に近づいた気がしていつもよりちょっと顔を高めに上げて歩ける気がする。行きつけが自分の最寄駅にある必要はないのだ。

代官山駅から少し歩いた静かな通りの奥にあるのが、私立珈琲小学校。
オーナーがもともと小学校の先生だったことからいろんな出会いの場である“学校”をモチーフにしたカフェだ。
大きなガラス窓からさんさんと日が差し込んで、ポカポカな空気を作り出している。
あかりはその温かい日差しの中にある椅子にそっと座った。

目まぐるしく違うことが次から次へと起こる東京での毎日の中に、
変わらない瞬間、を作り出すのは1つのサバイバル方法なのかも知れない。
いつもと変わらないあの席に座って、ラテをゆっくり飲む。
それが行きつけの持つ力なのかもとあかりはふと思った。
だからここもゆっくり、未来の私の席、になるかもしれない今を吟味する。

ここにはちゃんと素敵な“カフェのお姉さん”がいる。
気さくに話してくれる、ポカポカな空間にピッタリなあったかい人。
あかりの行きつけ条件3、クリア。

「私も実はバリスタなんです」
「そうなんですね!どこで働いているんですか?」

実はあかりもカフェで働くバリスタ、つまり自身もカフェのお姉さん、なのだ。
もっとコーヒーのことを知りたくて、極めたくて休日もカフェを巡る。
だから行きつけも当然、コーヒーの美味しいところ、が良い。
あっという間に共通の常連さんの話や、他の有名店の話で盛り上がる。
同業者って、なんかいい。それだけでまず一つのハードルは超えてる感、がある。

「私、パティシエの学校を出ていて。このお店のお菓子も私が焼いてるんです」
「そうなんですか!?すごい。これも?」
「お菓子作るのが一番、好きなんですよね」
「いいなぁ〜じゃぁこれ一個いただいていいですか?」

カフェのお姉さんの、心の“キラリ”に触れる。会話をしていくうちにその人が人生の中で大事にしていて輝いている想いが見え隠れする。東京できっと誰もがそれぞれ持って毎日を生きている、心の中の“キラリ”。また明日から頑張ろうと思えたりする不思議な瞬間。

奥にギャラリーがあって、ポカポカな空気が流れ、たまに外国人のお客さんが入ってくるクールだけどあったかい場所。“いつも変わらぬ瞬間”をたくさんここで見つけていくと、きっとここが行きつけになっていくのだ。

一杯のラテを飲み終わると、あかりはまた“変化”の毎日に飛び込んでいくべくドアを開ける。
すると後ろから、まぁリラックスして!と無駄な力を抜いてくれるような
「今日も素敵な1日を!」の声が追いかけてきてくれる。

文:岡野ぴんこ