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特集:ひとりでいるから、ひとりじゃない。

僕たちの自意識はどんどん膨張していく。他者からの、しかも会ったこともない人からの目線を気にしながら生きていかなければならない時代。そんな今だからこそ、「ひとりでいること」が必要だ。夏帆、朝井リョウ、斉藤アリス、夏木マリ、松尾レミ、ヨシダナギ。6人のキーパーソンに聞く「ひとり」の生き方。

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夏木マリ「人間は動物。動かないと何もわからない」

ひとりでいるから、ひとりじゃない。Co・ro・na / 私を生きて

4人目は、夏木マリさん。夏木マリ流のひとりの不自由、そして「好きなこと」の見つけ方について。

ひとりの自由と、ひとりの不自由

「決して『ひとりでいるから自由』ではないのよ」

夏木マリさんはそう言う。全ての時間を自分でコントロール出来るからこそ生まれる責任や不安、そこに不自由があるのかもしれない。インタビュー開始早々、ひとりってすごく自由なんじゃないかという既定概念をぶち壊してくれた。

「ひとりの方が大変。私は結婚してふたりになってからの方が楽チンだもの。ひとりでいる時はこれが自由なんだーなんて思ってたけど今はそうじゃないと感じてる。特に女性はね、ひとりの時間って自分磨きの時間だから。色々なことをしなくちゃいけないし、ひとりだと様々な責任が自分についてまわるからその方が難しいなと感じることがあるの」

ひとりにはひとりの自由がきっとある。でもそれだけが〝自由〞ではないということなのかも。どちらかの自由しか知らないのは、なんだかつまらない、そう言われている気がした。インタビューをしたこの日はミラノコレクションから帰ってきたばかりだった夏木さん。

「旅に例えると、帰りに寄ったパリでは私ひとりだったんだけど、楽しい時間を過ごしても後になってもっと有意義な過ごし方があったんじゃないかって飛行機の中で反省したりする。ふたりでいると相談できるし、自分が思いもしなかった提案が出てきたり、そういう自由さがあるのよ」

きっとそれは人生という名の旅も同じこと。自分ではない誰かがそこにいることで、考え方の幅が広がるし、重たすぎる荷物を一緒に持ってもらうように、少し心が軽やかになる。心の拠り所になるような〝ホーム〞が出来るから〝アウェイ〞でも心を解き放ち思いっきり挑戦出来るのだ。
夏木さんのその自由さの〝礎〞はそこにあるのかもしれない。

出来ないことを探し続けている

音楽に、映画に舞台に。演者から創る側まで様々なシーンで活躍しているクリエーター・夏木マリ。ジャンルを飛び越えて活動するためにどのようにバランスをとっているのか。

「私、バランスとるのが下手なの。だからこそ色々なことをして〝出来ないこと〞を探しているのかもしれない。ちょっとこれは違うな、とか自分に合わないなと思うものを見つけては捨てていく。その繰り返し。だからこれは合うとか、必要と思うものに出会った時にはそれにがむしゃらに熱中して勉強するの。表現することが好き、それは常に全てに通ずる芯として持ちながらね」

自分は何が出来ないのか、何が好きじゃないのか。それは自分を知るための大事なプロセスだと言う。捨てるために見つける、そうやって自分を知っていくのだ。

「ひとりの時間は自分を知る時間。でも、考える時間にしてはダメ。考えてるってことは動いていないってことだから。知ることは行動すること。行動して、失敗してこれはダメだったとかこれは良いなとか知るための時間なの。ちょっとの勇気を出して崖から飛んでみなきゃその先の景色はわからない。私なんてしょっちゅう崖から飛んで失敗だらけだから(笑)それでちょっと怪我したって大したことないじゃない、生きてさえいれば(笑)」

ああ、これぞ夏木マリ節。多くの人、特にライフステージの様々な変化になんだかんだと悩んでいる30代の私たちには必要だった言葉ではないだろうか。インターネットや人のSNSで情報を手に入れるだけで何かをやった気になってしまう。そうではなく、自分 で行動してちゃんと失敗する。そういう風に自分を知り、前に進みたいと思わせてくれる「私は、失敗なんて大賛成!」そんな夏木さんの声が耳奥で力強くこだまする。

時代は変われど人は動物

インターネットやSNSで情報や擬似体験、もれなく嫉妬や焦燥感まで見つけられてしまう時代。夏木マリ流のこの時代との向き合い方とは。

「時代は変わっても結局大切なことは変わらないのよ。そんなに複雑じゃないと思う。自分で行動して自分の目で見て、肌で感じる。そして失敗して疲れて、その先に何か得るものがあるの。それが自分という人間を創っていく作業だから」

最近、本当に自分の目で見ていたか、自分の肌で感じていたか。当たり前だけど実はサボってしまっていたかもしれない事に気付いてドキっとする。

「みんなちょっと周りの事を気にしすぎ。もうちょっと自分中心というか自分の考え方で行けばいいと思う。たとえ少数派でも『私はこれ好きじゃないのよ』って。自分を知っていれば自信になるから、周りの意見や行動が気になりすぎちゃう人は自分を知らないからかも」

自分という〝ひとり〞を創っていくためには行動しないといけない。つい頭でっかちに、考えただけで何かした気になってしまうけどそれでは何も得られないのだ。その通りだ、よし!なんて気負っていると「みんな色々すごい!って思っちゃうの。私なんてそんな考えてないもの(笑)旅に出てみたら!?楽しそうじゃない? そのくらいのものよ」なんて、どこまでも軽やかな夏木さんが笑う。

「あのね、時代が変わっても人間は動物なの。動かないと何もわからないじゃない」

夏木さんの行動力は本能だ。耳奥に何度も聞きたいこの言葉を残して、自分にも同じ動物的な本能がある事を信じ、すぐに動いてみることに尽きるのかもしれない。

文:岡野ぴんこ

スタイリスト:岡部俊輔(UM)
ヘア:TAKU(CUTTERS)
メイク:YUSUKE SAEKI(eight peace)

撮影協力:タブローズラウンジ