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ひとりでいるから、ひとりじゃない。

僕たちの自意識はどんどん膨張していく。他者からの、しかも会ったこともない人からの目線を気にしながら生きていかなければならない時代。そんな今だからこそ、「ひとりでいること」が必要だ。夏帆、朝井リョウ、斉藤アリス、夏木マリ、松尾レミ、ヨシダナギ。6人のキーパーソンに聞く「ひとり」の生き方。

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ヨシダナギ「身近な人と比べると、自分が醜くなる気がする。」

ひとりでいるから、ひとりじゃない。

最終回の6人目は、フォトグラファー・ヨシダナギさん。自分に過度な期待をしない彼女の”積極的他力本願”な生き方について。

できないことは、しない

自分のSNSで公開した1枚の写真が反響を呼び、TBS系番組『クレイジージャーニー』で大々的に取り上げられ、アフリカ原住民たちの色鮮やかで美しい姿を撮り下ろす「フォトグラファー」として一躍時の人となったヨシダナギさん。その華々しい経歴とは裏腹に、彼女の自己評価はきわめて低い。

ヨシダナギ 東京タワー

「ひとりでアフリカに行く女性ってすごくアグレッシブで、凛とした、パワフルな女性っていうイメージを持たれてしまって、実際に私に会った時にがっかりする人たちが多いので、なんだか申し訳ないなと」

昨年、彼女は一冊の「ビジネス書」を出した。その本では、自分のことについて、飛び抜けた才能があるわけでもない、ひとつのことをやり抜く力もない、責任を負うのだけはごめん、などネガティブな言葉のオンパレードだ。

「そもそも私は『何かをしないといけない』というのが無いんですよ。それでもなんとか生きてこれたし。それで十分」

インタビューを受けている目の前の彼女は謙遜しているわけでもなく、かといって不遜な態度でもない。むしろ、確信的な人間だけに備わる「落ち着き」のある佇まいをしている。話を進めるにつれ、その落ち着きは、彼女の自己否定の方法にあるのではな いかと思えてきた。

ヨシダナギさんは、子供の頃は集団生活になじめず「みんなと同じことが出来ない」ことを親や周囲から指摘され続け、不安を抱えながらやり過ごしていたという。しかし、14歳で両親が離婚した時に「無理やり自分のレールに乗せようとする母がいなくなったので、自分ができないことはしなくなりました」と割り切った。

その後、グラビアアイドル、イラストレーターなど好きなことに片っ端から手を出し、いまは「フォトグラファー」になっているが、その肩書きすら軽やかに否定する。

「この肩書きは『アフリカで脱ぐ女』から始まって、周りの方にそう呼んでいただくようになった、いただいたものなんです。写真の技術で比べれば私よりもすごい人は沢山います。だからこの先一生、この肩書きでいるなんて思っていないです」

誰でもうまくいくことなんて少ない方で、そのたびに「できない自分」を自覚する。彼女の場合はそれを悲観する間もなくさっさと次に行く。

積極的他力本願で生きる

ヨシダナギ 東京タワー

自己否定とは最も自分に優しい行為だと思う。誰かに否定される前に、自分で自分を貶めることで心の傷を浅くできるから。でもその優しさが、中途半端に自分を縛り付ける。傷つくことを恐れて前に進めない。なぜ傷つくか、それは、だめな人間と思いながら一方でまだ自分に期待をしているからだ。本当だったら、自分はもっとやれるのではないかと。ヨシダナギさんはそこでちゃんと「諦める」。自分に過度の期待をしない。それは投げやりなようで、むしろ芯のある生き方に思えてくる。

「私は、凄く音痴なんですね。お経レベルなんです(笑)。でも友達とか知り合いと比べると『私とさほど変わらなくない?』っ て思ってしまう時もあるわけで。それが嫌なので、とことん上の人と比べます。安室奈美恵さんやジョン・レノンとか。あまりにも上だから、『あの人に比べたら確かに私って音痴だよね』って(笑)。中途半端なレベルの人とは比べないで、上と比べたら私は圧倒的にダメだって思う。だから悲観もしない」

普通の人は、近視眼的に目の前の人と比較してしまう。しかし彼女には、それをしない強さと優しさがある。

「身近な人と比べると、妬みを持ったり、相手を蔑んだり、自分が醜くなる気がするんですね。身近な人と比べない、悪口を言わないことを生活に取り入れたほうが毎日が幸せだなと。誰かと比べて自分を優位に立たせようとするから醜く見えるわけであって、それを辞めたら生きるのも楽になるのではないかと思います」

彼女の自己否定は、冷静に自分の現在位置を確認する作業にすぎない。彼女はそこから積極的になる。いや、積極的他力本願になる。自分に力がないからこそ、素直に人の力を借りる。だれもが共感してくれるわけではないから、力を貸してくれそうな人を逃さないように積極的に動く、働きかける。

「『拾ってください、助けてください』って人から言われたら困るじゃないですか。私も嫌なので。私はあまり話術がある方ではないので、力を貸してくれそうな人に出会ったら、とりあえずそばに行って笑っています(笑)。あなたに対して何かを感じてるっていう想いが通じれば、嫌でも拾ってくれるというか、気にかけてくれるのかなって」

そんな彼女はこれまでの人生、運が良かったのだろうか?インタビューの始めの会話を思い出す。彼女は「しないといけない」ことがない、とは言った。でも決して「やりたいことをしない」とは言っていないのだった。

 

2冊目にして、ベスト写真集となる『HEROES』がライツ社より発売中。世界中の少数民族と先住民族の姿を撮影し続けるフォトグラファー「ヨシダナギ」の集大成となる1冊。2017年に開催され、1万人以上を集客して話題となった『ヨシダナギ写真展 HEROES』にて発表された作品をはじめ、未発表の作品を多数収録している。

撮影協力:東京タワー