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ひとりでいるから、ひとりじゃない。

僕たちの自意識はどんどん膨張していく。他者からの、しかも会ったこともない人からの目線を気にしながら生きていかなければならない時代。そんな今だからこそ、「ひとりでいること」が必要だ。夏帆、朝井リョウ、斉藤アリス、夏木マリ、松尾レミ、ヨシダナギ。6人のキーパーソンに聞く「ひとり」の生き方。

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朝井リョウ「本は人を強制的に数時間ひとりにさせる」

ひとりでいるから、ひとりじゃない。

2人目は作家・朝井リョウさん。最新作『死にがいを求めて生きているの』に見る膨張する自意識とネット・SNSとの距離の置き方について。

何かを否定しないと自分が保てない時代

朝井リョウさんの最新作『死にがいを求めて生きているの』は、平成という時代の‘対立’をテーマにした作品だ。平成に生まれた作家が今生きる同時代を客観的にとらえた意欲作。朝井さんの目には平成はどういう時代に見えるのか?

「時代全体のことはわかりませんが、個人的には『個性を大事に』とか『人と比べるんじゃなくて、自分のいいところを伸ばそう』と言われてきた実感があります。でも、『オンリーワンでいい』と言われた先、じゃあどうすればいいのか。そもそも人間は他人と比べないと自分のことを理解できないと思います」

対立のない時代、でも「人と違うもの」を持たなければいけないという空気の中で、否が応でも他人との比較を意識する。

「そこで止まればまだしも、その先にあるのが、自ら対立軸を生み出すことで自分の存在や価値を把握できないという感覚。ヘイトスピーチはその典型かもしれません。『その芸能人が日本人じゃないからといって何故そんなに怒れるの?』と思うこと、多いです。また、自分の社会における価値について考えすぎると、自滅思考に陥る危険性も高まります。私はそのタイプです。対立がない世界ゆえの自滅思考を書くことで、逆説的に平成の‘対立’を浮き彫りにできる予感がありました」

 

ネットやSNSの世界は「否定」や「批判」に溢れている。著名人の何気ない発言が炎上したり、社会をより良くしようという大義名分の下、旧来の営みが全否定され「アップデート」が叫ばれたりする。そこには他人や社会を否定することで自分を成り立たせようという空気が少なからずあり、毎日スマホを覗いていると、そんな‘煩わしさ’に思わず画面を閉じてしまう。物語の根底にはそうした時代感の中で「生きがい」を模索する若者の苦悩が描かれる。朝井さん自身もそんなSNSの繋がりから、ちょっと距離を置いているという。

 

SNSのある社会からは逃れられない

「今、都合よく自分の意見を変えたり、周りに合わせて適度な嘘をついたりすることが、とんでもない重罪だと捉えられている気がします。例えば『動物愛護の活動始めます!』と宣言した芸能人がいたとして、5年前に投稿したTwitterの写真を持ち出されて『リアルファー着てたくせに!』と糾弾される、みたいな。一貫してなければならないという‘圧’を感じます」

人間なんて、好きなことも考えていることも月日がたてば変わるものだ。しかし、インターネットの世界では自分の中の多面性が否定され、より一貫性のある「正しさ」を要求される。

「私は小説を書きたいわけであって、正しいことを書きたいわけではないんです。でも今、Twitterなどを見ていると、小説家にも意見者として一貫した正しさを求められている気がします。小説を書いていると人間の心は流動的であることにすごく自覚的になるので、『一貫して正しくあれ』という空気が苦手です。ダブルスタンダードって嫌がられますけど、そもそも人間ってダブルどころかハンドレッドスタンダードくらいのもんだと思います」

朝井さんはコミュニケーションの取り方についても冷静だ。LINEでのやりとりを嫌うのだ。

「既読機能が本当に苦手なんです。手紙でもメールでも、相手が開封したかどうかわかる、なんてことはなかった。既読機能ってコミュニケーション史上かなり大きな変化だと思うんです。私は人間関係において秘密や隠し事があることのほうが自然だと思うので、家族との緊急性のないやりとりなどはメールでしています。『別にそんなにお互いのことを知らなくてもよくない?』って思うんです」

でも、この物語にあるように、この世界から完全に離脱することが出来ないし、SNSを断ったところで、SNSがある社会からは降りられない。だからこそ冷静に一歩引いて、ひとりの時間をつくることが必要なのかもしれない。朝井さんは小説家らしく、「本を読む」ときに‘ひとり’を感じるのだという。

「これは小説家の窪美澄さんの言葉なのですが、本って、強制的に人を‘ひとり’にさせるんですよね。しかも数時間。それは映画でもテレビでも音楽でも無理で、本だけが人を2~3時間ひとりにさせる。私はそれで‘踏みとどまってる’のかもしれないです。」

彼をして「踏みとどまっている」と言わしめるこの世界の煩わしさ。朝井さんはインタビューを通じて自分自身について「正しい人間じゃない」と繰り返す。それは自己否定ということではなく、人間は時と場合によって考えや指向性がころころ変わるし、世の中をみてもどれが正解かなんて簡単に見つからないという「現実」を冷静に受けとめる心境から発せられる言葉だった。その自己批評ともいえる心持ちが、煩わしい世の中と適度な距離で付き合っていく最良の方法なのかもしれない。

最新作『死にがいを求めて生きているの』2019年3月発刊

 

朝井リョウさんのインタビュー・スピンオフ連載を公開中

今回の記事で語り尽くせなかったインタビュー全文を特別企画として公開中。こちらも合わせてお読みください。

特集:’この世界’からは降りられない 朝井リョウ インタビュー