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本能で動き感じる世界と"ひとり"の自分 夏木マリ インタビュー

ネットやSNSで広がる僕たちの世界から、ちょっと距離を置くための「ひとりの時間」について考える対談企画。今回は、夏木マリさん。映画も、音楽も、舞台もマルチに活動の場をもつ夏木さんの考える「自立した人」について。

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色んなことをやって、私は「出来ないこと」を探している。

Co・ro・na / 私を生きて

「自分はバランスの悪い女」と言い切る夏木マリさん。ドラマや映画、舞台にバンド活動をマルチにこなす彼女の発言とは思いがたい。まさに今世の中で叫ばれている「パラレルキャリア」を地でいくような人。でも、その真意はひとつのことに縛られない。

「色んなことをやっていて、その中で私は『出来ないこと』を探してるっていうのかな。出来ることを探してるんじゃなくて、出来ないことを探して確認してる。どういうアプローチでもいいと思うんだけど、私はたまたま歌から出発して、演劇へ流れていったり、自分で舞台を創りたくなったり。それは時間がそうさせてくれたんだけど、別に自分で『こうやろう』じゃなくて、『何が出来ないか』を発見するためにやってきた。それって結構面白いですよ、自分を知る上で」

自分が出来ないこと、自分が「これは違う」と思うことを見つけ捨てて整理していくのだという。

捨てて、前へ進んでいくための作業。それが続いて、繋がって道になっていく、と夏木さんは言う。

「楽しいこと、自分がハッピーでいられることをやるために探してる。だから凄く不器用というか、一つの才能がないんですよ。だからね、歌を生業にしているとか、芝居だけで生業を立てているっていう人はうらやましい。そういう事じゃないので、私の場合。ただ好きなんで楽しい。でもそれで生業にしちゃってるから、だったら何が出来ないのかを整理して、一番ハッピーなものを見つけようってことです。天才的に芝居が上手いとか、天才的な声とか、私はそういうのを持ってない。だからひとつに絞ることはしないの」

第1回目の中で「パリの人は時間の使い方が上手い」と言っていた夏木さん。夏木さんにとって上手な時間の使い方とは。

「やっぱり気持ちいい時間を過ごせるっていうか、何かに追われてないこと。目的があっても、それに落ち着いて向かえるというか。だからひとりの方が大変ですよ。みんなでいる時の方が楽ちん。
私、結婚した時の方が楽ですから。ひとりでいる時の方が大変。特に女性はね、ひとりでいる時は自分磨きの時間だから、色んなことをしなきゃいけないじゃない。それを上手く時間を使っていくっていうのは、大変だと思う」

結婚しふたりの時間が増えて、そうすると旅先でのひとりの時間はまた違った意味を持つものになるのかもしれない。ミラノコレクションの後パリをひとりで旅したという夏木さん。久しぶりの夏木さんのひとり時間の過ごし方は?

「決してひとりでいるからって、自由ではないのよね。二人でいる方が自由。ひとりでいる方が責任もあるし、どういう風にも使える時間って逆に難しいなって思う。旅先でも楽しいには楽しいんだけど、『もっと時間の使い方が有意義に出来なかったかな』って帰りの飛行機で思う。二人でいたら、二人で相談してやればいいから」

自由であるがゆえに、そこには無限の可能性があって、どれが正しかったかはわからないし、違う選択肢の先にあった“if”を想像してしまうこともある。

時間の使い方はやっぱり奥深い。でもだからこそその人らしさ、誰のせいにも出来ない自分に対する責任の取り方がそこで成熟していくのかも。

「凄く時間の使い方は難しい。ひとりでいる時は実はそう思ってなくて、『自由!』って勘違いしてたんだけど、それは今考えると全然自由じゃなかった」

一緒に考えてくれる別の価値観を持った脳があるということは、自分には思いつけなかった道やその先の可能性が生まれるということ。思いもよらない景色に辿り着ける未来がある。それは確かに、拡がり続ける無限の自由なのかもしれない。

ひとりの時間はどちらかというと考え事も自身の中でループする。

悲鳴にも近い悩みの言葉が自分で発して自分に跳ね返ってくるような。そんな時も誰かに託すと自分が思っているような重量ではなく意外と「こんなことだったか」とスッと軽くなることがある気がする。

「だからね、ひとりでいる時って、自分を知る時間なんだよね。『私ってこういう人間なの』とかね、『こういうこと考えてるんだ』とか、自分を知る時間なんだけど、自分のことを考える時間になっちゃう。考えなくていいのよね。自分を知った方がいいの」

自分のことを「考える」ことと自分を「知る」ことには大きな違いがあるという。

「『考える』のは、行動しないことなの。『自分を知る』のは、行動するの。行動して失敗して、『これはいらないのね』とか『これはいるのね、もっと勉強しなきゃ』とか。ひとりのそういう時って自分を知る時間なんだけど、なんか乙女チックに悩んでみたりとかして、行動しないのよ。やったつもりになっちゃうの。特に今はネットとかあるから、旅に出ない人とか車欲しくない若者とかは、絶対そっち派だと思うの。それはね、つまらない人生だと思うわ」

考えることで何かを結論付けるのではなく、動いて体感して知ること。今の時代、ふと気を抜くと自分の五感で感じず誰かの感覚に頼ったり、知った気になってしまいがち。もっと恐ろしいのは、それにさえ気付いてないこともあるのではないかということ。

夏木さんの言葉はまさに背筋をヒヤリ、そしてピリリとさせてくれる。でも行動したことが失敗につながる、そんなこともあると思うのだが・・・。

「失敗は、もう大賛成ですよ! 失敗しなきゃダメよ、人は」

「とにかくね、人は動かなきゃダメ。動物なんだから人だって」

その言葉以上に説得力のあるものがあるだろうか。知る、という知的目的のためには本能をフル活用して動物として動く。とてもシンプルで人間らしい、そこに立ち返るのだ。

文:岡野ぴんこ