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東京珈琲探訪 with Vaughan

世界中のコーヒーショップを1,000軒以上巡るVaughan。コーヒー界ではカリスマ的存在の彼は、2009年にコーヒーの街メルボルンから東京へやってきた。そんな彼の「TOKYOフェイバリットカフェ」は、僕らの予想を超える意外な場所だった。

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街になくてはならない、愛されコーヒースタンド。溝の口「二坪喫茶 アベコーヒー」

二坪喫茶 アベコーヒー

東京中のカフェを知り尽くしたVaughan。店主や常連客とのコミュニケーションを大事にする彼のお気に入りはどんなカフェでどんな人たちがそこにいるのだろう?お気に入りのひとつ、溝の口の小さな小さな「二坪喫茶 アベコーヒー」はひっきりなしに店主と会話する客が訪れる、“街のコーヒー屋”の理想形だ。

取材陣が到着すると、すでにVaughanは店主やスタッフとお喋り中。なんだかレトロで、凜とした空気を纏うこの場所は一体なんなのか?

「ここ(建物)、本当に美しい建物でしょ?ちょっと中も見せてもらっておいでよ!」

美しいですね!ちょっと鳥肌立ちました。中を少し見せてもらいますね。

実はこちら、90年前は産科院だった建物を、改築してコミュニティスペースとシェアオフィス、レンタルスペースの複合施設「Nokutica」にしたのだそう。細部に当時のものが残されており、まるで誰かの息遣いが聞こえてくるようだ。歩くと軋む床板にはノスタルジーを感じる。そんなまるで文化財のような建物の入り口にあるのが、今回のVaughanのおすすめ「二坪喫茶 アベコーヒー」である。

-このお店はどうしておすすめなんですか?

「このお店はもうすぐ2年になるんだけど、すでにもうこの地域のインフラのようになってきているんだ。これってすごいことじゃない?」

-確かに。普通は、長年かけてそうなっていくものですよね。

「そうそう、まるで長い時間、ずっと当たり前にここにあったかのようだよね。多くの人にとって、存在していることそのものが重要になるのって本当にすごいことだと思う。僕はこういったお店が大好き。人々の日常生活の一部になっているカフェってすごく魅力的。もちろんみんな、コーヒーを飲みに来る訳なんだけど、オーナー(阿部さん)や他の顧客とのやり取りをして、自分たちの一日をもっと楽しむことができる。阿部さんはその中心になれる素晴らしいバリスタだと思う。彼女はお客さんと本物の関係を築いていると思うんだ」

-常連さんは近所の人なんですかね? さっきから、お客さんっていうより、みんな知り合いみたいな感じで接客されていますよね?

「そう、シェアオフィスの人や近所の人々が多いみたい。客と店員というドライな感じじゃなくて、対等でありながらお互いをリスペクトしている感じがすごくいいよね」

-確かに。シェアオフィスの一部のようになっているんですね。ちなみに、ここは一般の人も入れるんですか?

「もちろん、コーヒーを飲みにいつでも誰でも訪れることができる。確かにちょっと小さいから客席は通常ないんだけど、向かいの部屋が展示会やイベントが行われていない場合は、そのうちの1つの部屋をカフェのために開放してくれたりするんだ。その場合は阿部さんが丁寧に教えてくれるよ。ちなみに展覧会がある場合は、どんなものなのかチェックしてほしい- Nokuticaはいつも本当に面白い展示をやっているから」

-ここに来ると、Vaughanはどうやって過ごしていますか?スタンドだから客席はないのだけど……。

「僕はたいてい椅子をセットして、阿部さんと何人かの常連さんとおしゃべりをしてるよ。彼女も同じように椅子をセットしたり、コーヒーを淹れながら僕の話を聞いてくれたりしているかな」

-ここへ初めてきた時のことを覚えていますか?

「もちろん!絶対忘れないと思うよ。実はその日本当は4軒の喫茶店を訪問することになっていたんだ。アベコーヒーが1軒目の予定だったんだよね。コーヒーを注文してから、たまたまそこにいた70歳の常連のおじいちゃんといろいろなことについて話し始めた。話題は世界中の旅行から生活の意味まで本当にいろんな話をしたんだ。 結局、盛り上がりすぎてしまって、予定は変更してアベコーヒーに一日中いることに(笑)。僕はいつもコーヒーショップで他のお客さんとお喋りするのが好きだけど、それでもこんなことは初めてだったよ(笑)」

Vaughanが初めて来店したその様子がなんと写真に残されていた・・!

-お喋りが止まらなくなる出逢いがあったんですね(笑)!

「そうそう。そのおじいちゃんと、阿部さんと、ずっとね。初めてなのに、相当居心地良かったんだろうなぁ」

-お話を聞いていると、店主の阿部さんがすごく気になります。彼女のどういうところが魅力なんでしょうか?

「いや、色々あるんだけど、本当に彼女自身だと思う。彼女はみんなの名前を覚えていて、おそらく注文内容も覚えているはず。たとえば、先日、僕は喉の痛みがあることに気づき、そんな話をしていたら、彼女から「レモンハニージンジャードリンクはどう?」と言ってくれたんだ。…メニューにそんなのないのにね」

-優しい……! 

「ね。なかなかできることじゃないと思う。あとは、純粋に若い女性が自分の喫茶店を経営しているのを見るのは素晴らしいことだと思う。僕はカフェを訪ねたり、オーナーにインタビューしたり、バリスタ選手権を審査したり、勝ち取ったりするのに多くの時間を費やしているから知り合いも多いんだけど、圧倒的に男性が優勢な業界なんだよね」

-確かに。バリスタさんって男性のイメージ強いですよね。

「そうそう。オーナーさんともなると、もっと男性が多い。だから、若い女性がオーナーだってすごく珍しいし、応援したくなるよね」

-なるほど。阿部さんが淹れてくれる、肝心のコーヒーはどんな感じなんでしょうか?

「コーヒーの基準は非常に高いよ。彼女は店を開く前に、オーストラリアで最も尊敬されている日本のコーヒー専門家の一人である下修正に師事するためにメルボルンに行っているんだ。おいしいエスプレッソを引き出すこと彼から学び、お墨付きをもらっている。阿部さんのハンドドリップは興味深い味が自慢だし、そして彼女のラテのミルクの食感は素晴らしいよ! でもそれをひけらかしたりしない。お客さんが『コーヒーが美味しい』って言うと、すごく嬉しそうだから、シンプルにそれだけでいいんだろうね」

-2年前でしょうか。VaughanはTokyo Coffee Festivalにアベコーヒーを招待していますが、何かストーリーがあったら教えてください。

「招待を受け入れてくれて嬉しかった。アベコーヒーは僕にとってキースタンドのひとつになったんだ。その回のTokyo Coffee Festivalの販促資料のメインショップとして選ばれ、その結果、2日間に渡って行列が途切れないほど大人気だったんだよ! そういえば、最近中国のコーヒーイベントからオファーされたと聞いたよ。ここは小さな店だけど、大きな影響を与えているのを感じてとても嬉しいですね」

-そんな大人気のアベコーヒー。これから店舗が増えていったりするんですかね?

「どうだろうね。そうなったら嬉しいけど。彼女にこれからどうするのかみたいな話を聞いたことがあるんだけど、「いろんな人の日常を少しのぞかせてもらったり、子供の成長をみれたり。私のお店がそこにあるのが当たり前のようになれてるなと感じた時、とても楽しい」って言ってたのを覚えているな。器のお店とか植物のお店とか、暮らしが楽しくなるお店はやりたいみたいなことも話していたよ。ここから彼女の夢が膨らんで実現していくのを見るのはすごく楽しみだね!」

 

Profile
Vaughan(ヴォーン)

PHOTO:Satoru Tada

オーストラリア・メルボルン出身。東京に住んで10年以上。日本のコーヒーカルチャーを世界に発信するインフルエンサー。モデル、音楽プロモーター、イベント企画、キュレーターなど100の顔を持つ東京セレブリティ。
www.vaughan.tokyo
instagram @vja

撮影:濱田晋

意訳:稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)

撮影協力:二坪喫茶 アベコーヒー/ Nokutica