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TOKYO WELL-BEING “東京でつながる”という幸せ

不確かな未来や、到達できそうにない目標を嘆くくらいなら、「小さな幸せ」をたくさん持っているほうがいい。好きなことに邁進する人たち、同じ価値観の輪を拡げる人たち…。東京は、ささやかだけど確かな幸せを生む“つながり”に溢れているのだ。あなたは今、幸せですか?

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又吉直樹「30代は、自分の好きなことや幸福度を高める方向に向いていく」

TOKYO WELL-BEING “東京でつながる”という幸せ

3人目は、芸人だけでなく作家としても活躍する又吉直樹さん。何者かになりたかった20代から、新たな視点を受け入れる30代へ。最新作『人間』を通して見る、30代の幸せについて。

又吉直樹さんの最新作『人間』は、20代の「自分は何者なのか?」という葛藤と悲劇的な出来事を経て、38歳になった主人公が自分の幸福感のありかを見いだしていく渾身の私小説に思える。「やりたいこと」や「なりたい自分」を規定してくれるような「自分が何者であるか?」という葛藤は、誰しもが一度は抱えるものだ。又吉さん自身は「何者であるか」というお題とどう向きあっているのだろうか?

「何者かである必要はないというのが、今のところの僕の答えですね。こどもの頃って、自分はスーパーな人になれると信じているわけですよね。それがいつか現実に気づく。将来のことを考えるようになってからも、そういう挫折ってあると思うんです。僕はサッカーをやっていたんですけど、サッカーでも同世代で中村憲剛さんとかがいて、『あぁ、どうやら僕はこの世界の主人公ではなかったな』と一旦確信するじゃないですか。その時点で自分が何者であるかという視点から離れないといけないですよね」

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10代までは「何者かになれる」と思っていた。しかし「何者」とは、大成功したスーパーな人たちを見て、自分を重ねていることが多い。それが遅かれ早かれ「そんなに甘くない」という現実に気づいてきて、それでも頑張るのか、どこまで頑張ればいいのかを悩む。そのうち結果がすぐ出ないことに苛立って、頑張り方すらわからず絶望してしまうこともある。だから、一旦「やりたいこと」や「なりたい自分」を脇に置いて、ひたすら「できること」に向き合っていく。それは決して悪いことではなくて、むしろ周囲の期待に応えることにつながるわけで、精神的にも経済的にも「自分にできること」の追求には意味も価値もある。

「そういう30代を過ごしていくうちに、だんだん自分の好きなこととか自分の幸福度とかを高めていく方向に意識が向いていくんじゃないかと思います」

「何者」をほかの誰かと重ねることをやめて「自分の幸福度を高める」ことに注力する。ずっと高い山の頂上だけを見てきたが、ふと立ち止まって、登っている自分自身や周りの景色を見渡してみると、頂上に行くことだけが幸福ではないと気づく。

「僕の場合は、そういう幸福度の高い先輩が周りにいたんですね。たとえば、真心ブラザーズのYO-KINGさんや小説家の中村文則さんにとても感銘を受けました。おふたりとも、才能もあるし、作品に対して課しているものがめちゃくちゃ大きく感じるんですが、会うととても自然体でいるんです。おふたりは全然違うタイプの方ですが、それぞれのやり方でスタイルを確立させているなって。自分のやり方を持つってこういうことなんだというのが見えてきたんです」

『人間』の主人公も、表現者としてもがき苦しみつづけたのち、故郷を訪れる。そこで「創作者とはちがう人たちの人生や生活」に改めて出会い、自分の中の「何か」を回復していく。そして東京に戻り「自分のスタイル」を再び探し始める。それは長い道のりかもしれないし、明日にも見いだせることかもしれない。それを見つけたからといって万事が万事、幸福でいられるというわけでもない。ただ、それまでよりは少し楽になれるはずだ。

「僕は自分で『芸人やる』と言って上京してきたわけですよ。普通に進学することも、大阪で就職することもできた。でも、勝手に芸人やるって出てきて上手くいかなくて悩んでるって、むちゃくちゃアホやなって思ったんですよ。自分を客観視できるようになってからは、もうちょい楽に、自分で選んでるってすごく面白いことなんじゃないかと思うことができるようになりましたね」

人生は選択の連続だ。「自分が好きなこと」に自覚的であれば、苦しさも自分の選択の結果として受け入れられるはず。常に作家としても芸人としてもストイックに表現の完成度やオリジナリティにこだわる又吉さんは、やはり「芸人である」とか「芸人になりたい」ということの前に、創作することが好きだし、お笑いが好きなのだ。その好きなことのコアの部分を自覚できたとき、人は強くなれるのだと思う。

彼の小説が、コントや創作を世間に発表する芸人のような「表現者の葛藤」に限った話であれば、こんなにも多くの人を惹きつけないだろう。誰しもが「なりたい自分」と「やりたいこと」に向き合う中で、その葛藤の先にある「幸福感のありか」を探している。『人間』は、そんな「等身大の僕たち」を描いてくれているのだ。

 

スタイリスト:オク トシヒロ
ヘアメイク:中村 兼也(Maison de Noche)

写真:岡祐介

撮影協力:MONKEY GALLERY D.K.Y.

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