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HOME SPECIAL Second Town Journey in ONOMICHI(尾道) 尾道を知る①|空き家再生で地域との接点を生み出す|NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト 豊田雅子
尾道を知る①|空き家再生で地域との接点を生み出す|NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト 豊田雅子

VOL.2 尾道を知る①|空き家再生で地域との接点を生み出す|NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト 豊田雅子

全国的にも珍しい、海と山に囲まれた地形の尾道。そこに時代の異なる歴史的建築物が立ち並び、独特の都市空間を作っている。その景観を守り続けている功労者が、「尾道空き家再生プロジェクト」の代表である豊田雅子さんだ。彼女の活動を通して考えた、尾道の魅力とは。

誰もが尾道に惚れ込む理由は人

今回の企画で、地元の人に取材していると、旅行者が美しい景観に惚れ込み、やがて移住するケースが多い街だという話を聞く。確かに、自然の地形と歴史的建築物が共存している尾道は、ヨーロッパ的な魅力を備えている。しかし、誰もが前のめりに街を好きになれる理由は、その景色だけでなく、新しい人を受け入れる街の性質にあるといえる。そんな尾道の魅力に大きく貢献しているのが、NPO法人「尾道空き家再生プロジェクト」の発起人である豊田雅子さんだ。彼女は、20年近くにわたって尾道で問題とされてきた空き家を再生してきた人物。空き家バンクを使ったマッチングによる移住の成立はなんと130件。うち半分以上は県外からというから驚きだ。現在は、30代~40代を中心に彼女が再生した空き家に住んでおり、それを使って本屋やゲストハウス、カフェなどを運営している。集う場所が生まれ、人が人を呼ぶ好循環ができている。

「日本の大きな街はほとんどが戦争で焼けてしまい、尾道のように戦災がなく大正時代以降の建築物が残っている街は稀。駅の横から伸びる尾道本通り商店街には、京都のように町屋があり、山の斜面地エリアには100年以上前の洋館や邸宅が残っています。いずれの建物も文化財ではないので手を加えやすく、だからクリエイティブな若い人たちがそれを使って新しいことをやりたいと尾道に来るのだと思います」(豊田さん)

「尾道空き家再生プロジェクト」のパンフレットには100件にものぼるこれまでの活動が記録されている。
NPO法人「尾道空き家再生プロジェクト」の代表理事、豊田雅子さん。セカンドハウス探しをきっかけにNPOを設立。

地域の人々の顔が浮かぶ関係地

街にコンビニエンスストアやフランチャイズ店があまりない代わりに、このような空き家を使ったオリジナリティのある店や空間が点在しているのが尾道の特徴だ。尾道本通り商店街に佇むゲストハウス「あなごのねどこ」や「あくびカフェ」、その先にある本屋「紙片」、そして、山の斜面地エリアにある「ネコノテパン工場」など、個人規模ながらも、移住者が始めた新しいことに街の人たちが共感し、そこが街のハブになっている。さらに、観光客にとっても、これらカルチャースポットがディスティネーションとなり、新しい街歩きが観光となっている。

その一方で、豊田さんの「尾道空き家再生プロジェクト」の尽力によって街が現在の状態になるまで、20年近くの年月がかかっていることを忘れてはならない。街を再開発する場合、東京をはじめ、どの地方もタワーマンションやショッピングモールなど大きな力を割いて稼働効率を上げることを優先しがちだ。しかし、街のため、住民のために行う以上、数年後ではなく数十年後まで見据えて街を設計することが重要である。豊田さんは少しずつ、街の人と目線を合わせながら新しい移住者を空き家に送り込み、彼らの仕事をつくることで暮らしやすい環境を整えてきた。

「空き家を通して、あそこに行けばあの人がいて、あの仕事はこの人がやっているなど、顔の見える範囲で生活が成り立っているのがいいところですよね。活動を始めた当初直面したのが、移住してくる人たちの雇用問題。やはり生活のベースは仕事であり、仕事が最初の居場所となるんです。そこで、大型空き家をゲストハウスとして利用し、その運営を彼らに任せることにしました。明治時代の町屋『あなごのねどこ』や大正時代の別荘建築である『みはらし亭』がそれにあたります」(豊田さん)

千光寺の真下の崖の上に立っているゲストハウス「みはらし亭」。戦後、一時期旅館として活用されていたが、30年ほど空き家となっていた。
ゲストハウス「あなごのねどこ」の店長であり、イラストレーター兼デザイナーのつるけんたろうさん。

街に対する想いが、人々の心を動かす

取材中に豊田さんと一緒に山の中を歩いていると、さまざまな店の店主や近所の人たちが豊田さんに寄り添ってくることがあった。この光景からも、彼女がただ空き家を提供するだけで終わらず、家主のもとに足を運び、熱心にコミュニケーションを取り続けていることがわかる。この些細な日常もプロジェクトがサステイナブルに取り組んでいけている理由だと感じる。

坂の上にある「陶房CONEL」で店主にあう豊田さん。
同じく坂の上にある雑貨屋「monolom」で店主の手作りの指輪を購入する豊田さん。

「私もそうですが、尾道は新しく来た人たちに興味を持つ人が多い街だと思います。私を含めお節介な人が多いので(笑)。『この人はどこから来て、こういうことやっているよ』とかお客さん同士で盛り上がることもよくあるし、日々誰かと連絡を取っている環境が街にあります」(豊田さん)

これは街づくりだけでなく、我々メディアを育てていく人たちにも共通する姿勢だ。何かを生み出すことは、日々丁寧にユーザーや関わる人たちと密にコミュニケーションをとり続けることが大事である。そこから生まれるのが、共感の連鎖。そしてその共感を生むには、専門性はさして重要ではない。それよりも、豊田さんのような生活者としてのセンスや未来への危機感が、人の心を動かす。なかなか人の心が動かない時代。豊田さんの行動のように、メディアとして情報が生活にどんな意味をもたらすかを真摯に伝えていきたい。

取材協力:豊田雅子(NPO法人尾道空き家再生プロジェクト)
撮影:もろんのん
取材・文:羽賀まり奈(Harumari TOKYO編集部)