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HOME SPECIAL Second Town Journey in ONOMICHI(尾道) 瀬戸田を知る①|伝説のホテリエが手がけた旅館、Azumi Setoda
瀬戸田を知る①|伝説のホテリエが手がけた旅館、Azumi Setoda

VOL.5 瀬戸田を知る①|伝説のホテリエが手がけた旅館、Azumi Setoda

尾道の市街地だけでなく、そこからしまなみ街道を進んで3つ目の島、生口島の瀬戸田町が盛り上がりを見せる。そのきっかけが、アマン創業者が手がけた旅館「Azumi Setoda」のオープン。いま、世界中の観光・リゾート関係者から羨望の眼差しを受けている旅館の魅力を探る。

アマン創業者がAzumi Setodaに込めた想い

Tomohiro Sakashita

瀬戸内海に浮かぶ尾道市生口島(いくちじま)の瀬戸田町。色鮮やかなレモン農園や、穏やかに波打つ海、青々とした樹木が茂る山並みといった、美しい自然が魅力のしまなみ海道の島のひとつだ。そんな瀬戸田にできたのが、アマン創業者であるエイドリアン・ゼッカ氏がてがけた「Azumi Setoda」だ。

ゼッカ氏が日本を訪れ、初めて「旅館」に出会ったのは1950年代のこと。どこか家庭的でありながら、ゲストへの“おもてなしの心”が溢れた旅館の宿泊形態に感銘を受けたという。ゼッカ氏はのちに、世界各地でラグジュアリーホテル「アマン」を次々に成功させていくのだが、「いつか日本で旅館をつくる」という想いを心に秘めていた。

ゼッカ氏は、旅館の最も重要な要素は「主(あるじ)とその家族が、ゲストをまるで家に招待しているかのように感じさせるような、心からのおもてなしを提供すること」だと述べている。その言葉どおり、「Azumi Setoda」はこれまでのラグジュアリーホテルとは異なり、日本的なおもてなしの心をふんだんに盛り込んだ旅館となっている。

まるで邸宅に招かれているかのようなおもてなしの数々

Tomohiro Sakashita

瀬戸田港からすぐの場所に位置し、フェリーで生口島に到着した旅人を出迎えてくれる「しおまち商店街」。商店街を歩き始めるとすぐに「Azumi Setoda」が見えてくる。それまでは個人商店が立ち並ぶ、よくある地元の商店街の雰囲気なのだが、「Azumi Setoda」が立つエリアには両サイドに伝統的な日本家屋が立ち並び、まるで古き良き昔の日本にタイムスリップしたような気分になる。

同館は築140年の邸宅「旧堀内邸」を改装。かつて瀬戸田で製塩業や輸送業で栄えた豪商・堀内家が、大切なゲストを迎え入れるために使っていたものだ。

中に一歩足を踏み入れると、まず感じられるのが圧倒的な抜け感だ。邸宅として使われていた当時の日本家屋の面影を残しつつも、二階部分を極力撤去することで広い空間を確保した、開放感のある造りになっている。

改装は、伝統的な日本建築の専門家である建築家・三浦史朗氏の監修によるもの。
建物全体に木や石、土といった自然の生きた素材が活かされており、瀬戸田ならではの日光や心地よい潮風が入り込むように緻密に設計されている。現代的な洗練された空間でありつつも、障子や中庭は旧堀内邸本来の建築様式を残しており、伝統的な日本建築の美しさを体感できる。ただラグジュアリーな空間ではなく、その土地の文化や自然をうまく融合させている造りからは、ゼッカ氏ならではの美学を感じられる。

館内に置かれている家具は、地元広島の老舗家具メーカー土井木工株式会社と共同制作したもの。檜など地元の自然素材を使用しており、館内の雰囲気や庭の景色に自然と溶け込んでいる。ベッドの手前にあるデスクは掘りごたつ式で、電源も用意されており快適に仕事ができるようになっていた。

Max Houtzager
Max Houtzager

食事は、魚介類や柑橘類、野菜など地元の旬の食材を用いた料理が楽しめるのだが、これらの料理は堀内邸がお客様を招いたときに振る舞った料理をイメージしているそう。古くから瀬戸田が海上交易の要所であったことから、アジアやペルシャを感じさせるハーブやスパイスを取り入れていることも特徴のひとつ。旧堀内邸で保管されていた貴重な食器類も使われ、伝統的な家庭料理の雰囲気をより引き立たせている。

Max Houtzager

旅人向けには、瀬戸田の魅力を存分に楽しめるアクティビティが用意されている。「しまなみ海道」ならではのサイクリングツアーをはじめ、レモン狩り体験、瀬戸内海の魚釣りツアー、サンセットクルーズ、お寺での座禅体験など、さまざまな体験を通じて瀬戸田の魅力に触れることができる。時間によって刻々と変わる広大な海の表情、豊かな自然は、いくら動画や写真が美しくとも、その目で見て感じるものとはまったく違う。

Max Houtzager

編集部が瀬戸田に滞在したのは数日。わずかな時間ではあったが、「Azumi Setoda」に対しての思いを表現するなら「また訪れたい」というより「帰ってきたい」という言葉がぴったりのように感じられる。それも、地域の文化が育まれてきた商店街の入り口に位置し、かつて人が暮らしていた面影を残す邸宅の中で、地元の暮らしに溶け込んだ体験をさせてくれるからこそなのだろう。

「Azumi Setoda」での滞在は、日本文化の良さや瀬戸田の自然の豊かさをありありと感じさせてくれた。これがもし、よくあるラグジュアリーホテルだとしたら、この体験は得られなかっただろう。その意味でこの旅館は、消費的な観光ではないディープな旅行をするには、最適のデスティネーションのように思える。

別棟の銭湯+旅籠「yubune」は地元の人々との交流の場

「Azumi Setoda」に泊まるなら必ず寄りたいのが、向かいに立つ銭湯+旅籠「yubune」だ。
同施設は銭湯やサウナが備わっており、Azumi宿泊者なら何度でも利用できる。私たちのような旅人だけでなく地元の人々も利用でき、双方の交流の場としての役割を担っているのだそう。特に夜は、日帰り観光客や通過するサイクリストの姿が減り、「瀬戸田で宿泊する人たち」と島民だけの空間となる。一種、瀬戸田の魅力を理解している者同士だけの連帯感。まるで地元に受け入れてもらったような、旅人なのにローカルに仲間入りしたかのような不思議な感覚を堪能できる。これは、宿泊者限定の施設にはつくれない空気感だし、銭湯として商店街に開かれていることの素晴らしさを感じ、これこそが日本文化なのだと体で感じることができる。

通常の浴槽のほか、季節に合わせて瀬戸田ならではの変わり湯も楽しめる。取材当時はレモン風呂が用意されており、柑橘の香りがほのかに漂うぬるめの湯に浸かるとカラダだけでなく心もリフレッシュすることができた。銭湯内には瀬戸内の島々や生き物をモチーフにしたタイル画が掲げられている。可愛らしくもどこか印象的で心に残る絵柄が、その日一日の瀬戸田であった出来事を振り返らせてくれた。

入浴後には宿泊者限定のyuagariラウンジへ。
お茶やソフトドリンクはもちろん、ビールなどのアルコールも用意されており、お風呂上がりの時間を満喫できる。

yuagariラウンジは日中にコワーキングスペースとして利用することも可能。宿泊者限定なので人が少なく、落ち着いた空間の中で作業できるのが嬉しい。電源やWi-Fiも完備されており、不自由なく作業に没頭できる。
実は、事前に指定していたチェックイン時間よりも早く到着してしまった編集部員。yuagariラウンジはまだ利用できないと思っていたが、yubuneスタッフの心遣いでラウンジに案内していただき、仕事をすることができた。その後も、チェックインの前倒しをしてもらい、待たせてしまった(こちらが早く来てしまっただけなのだが)お詫びということでドリンクのサービスをいただいたりと、ゼッカ氏の唱える“おもてなしの心”に通ずる姿勢がひしひしと感じられ、胸がいっぱいになった。

Max Houtzager

〈Azumi〉という名は、はるか昔、海を渡って日本に根付いた海の民「安曇族」から名付けられている。さまざまな民族が海を越えて各々の文化を持ちこみ、複雑に絡み合うことでできあがった日本の成り立ちをイメージしており、「Azumi Setoda」自体も地元文化とインタラクティブにつながることを目指している。

東京からは新幹線や船を乗り継いでいく必要があるものの、体感できるおもてなしや地域の文化や人々との交わりはこの土地、この旅館でしか味わえない。心身を癒やしにいくだけでなく、都会での日々にはないインスピレーションを得るためにもまたいつか帰ってきたい、そんな風に感じられる滞在だった。

取材協力:Azumi Stoda / yubune
メイン画像:Tomohiro Sakashita
取材・文:宮田真雪(Harumari TOKYO編集部)

Azumi Setoda / yubune
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
公式WEB: https://azumi.co