動画配信サービスを使いこなしている人は、エンタメへの感度が高い。そんな層にちょっぴり新鮮な、シニカルなトークで笑わせるアメリカのスタンダップコメディ。日本のお笑いに慣れた脳でその世界をのぞいてみると、新しい体験ができるはず。
「これはアメリカで一般的なスタンダップコメディというジャンルです。日本ではなじみのないスタイルですが、ぜひそんな新しいお笑いに挑戦挑戦してみてほしい! 今話題の映画『ジョーカー』に出てくるのもこのスタイルのコメディアンです」(ぴんこ)
スタンダップコメディとは、オーディエンスを前にして、コメディアンがマイク片手に話術だけで笑いをとるという、アメリカのエンターテインメントのこと。
「ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが海外で挑戦しているのもこのスタイル。ジャンルはちょっと違いますが、渡辺直美さんもNYのステージに出演したり、実は日本の芸人さんが挑戦していることで海外のコメディのスタイルは少しずつ注目されてきています」
「日本のファンのなかには『あの人たちアメリカで何やってるの?』という人もいるんじゃないでしょうか。こういう作品を観ると、どんなことをやろうとしているかがわかると思います」
日本の漫才やコントとは違う、ひとりの喋りだけでその世界観や皮肉なジョークで観客を笑わせる独特のエンターテインメントなのだ。
「Netflixでは最近、いろんな有名人のスタンダップコメディをそのまま全編流している動画が増えています。サイト内にはスタンダップコメディのカテゴリもあるので、それだけを検索することもできますね。今回はその中からチョイスした1本です」
主役は、映画監督であり、映画・TVプロデューサーでもあるジャド・アパトー。
「ジャド・アパトーはコメディ映画の作り手として知られています。けっこう作品も出していて『40歳の童貞男』とかが有名かな」
そんな彼が1時間9分ほぼノーカットでひたすらしゃべり倒すのが、今回紹介する「ジャド・アパトーのザ・リターン」だ。
アメリカならではのシニカルな社会派ジョークが新しい
「で、今回紹介したのは『面白い!』とか『笑える!』とかが理由じゃありません。むしろギャグはアメリカンジョークなので、『そこで笑うんだ…』みたいな気分になります」
「日本にはないエンタメの形として、こういうのもあるんだ、と知ってもらいたいのが趣旨。もちろんコメディなので、基本的には面白おかしく話すんですが、いまの社会や文化的なものへの批判精神が織り込まれていて、けっこう考えさせられる内容になっているんです」
実際「ジャド・アパトーのザ・リターン」では、話題は子育てから自分がいじめられていた話、トランプ政権や議員のことまで幅広く展開される。
「彼はユダヤ人なので、そのへんの自虐ネタも出てきます。アウシュビッツのネタとか。ユーモアのなかにシニカルで結構センシティブなテーマをミックスして…という、スタンダップコメディの特徴が存分に詰め込まれた内容になっています」
ちょっと昔だと、チャップリンに通ずるようなテーマ性がある。
「いまは俳優でもコメディアンでも、何かしら社会に対して意見を持っていないと、『あの人は何も考えてないのね』と見られてしまうのが海外。いろいろ思うところを痛烈に言ってるけど、ジョークにすることで許される、というところにアメリカの文化的なものを感じます。メッセージ発信のひとつの形ですね」
これまで「日々是エンタメ」で紹介してきた作品とは異なり、「ジャド・アパトーのザ・リターン」はシリーズものではなく1本完結型だ。
「もし面白いなと思ったら、ほかのスタンダップコメディも観てみてください。ほとんどの作品に社会風刺が入っています。たとえば黒人やアジア系だったら、人種のテーマは鉄板ですね。あとは全体的に下ネタも鉄板ジョークとして多用されています。まぁそれが笑いの全世界共通言語なんでしょうね」
「女性のコメディアンもたくさんいますよ。向こうではひとつのスタイルとして確立されているので、有名なコメディアンはかなりセレブです。日本でいうと上沼恵美子さんや、コメディアンではないけど黒柳徹子さんにあたるような有名な冠番組をもった大御所も!」
いちど観たら、日本のバラエティ番組とは違う不思議な気分に。そんな新しいエンターテインメントに触れてみるのも、お笑いをアップデートするのも面白い。
取材・文:中山秀明
コンテンツセレクト:岡野ぴんこ
【ジャド・アパトーのザ・リターン】
映画監督・プロデューサーのジャド・アパトーによるスタンダップコメディ。制作現場の裏話から家族のこと、社会問題や時事ネタまで、さまざまなテーマについてユーモアと皮肉たっぷりに語る。
Netflixオリジナル作品「ジャド・アパトーのザ・リターン」独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/80158871
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