2人目のインタビューは、OKAMOTO’Sのベーシストであるハマ・オカモトさん。1990年〜1991年生まれの同世代のバンドの中では特に早いデビューを飾ったが、そのぶん激動の音楽業界に長く身を置いているということになる。デビューからの10年を振り返り、今思うこととは?
デビュー10周年を記念してムック本『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』(リットーミュージック)を出版されますね。
「打倒、Wikipedia」っていう裏テーマがあって(笑)。俺にもあるんですよ、Wikipediaのページが。どこの誰だかわからない人によってすごく詳細に書かれていて。
ファンの方がきっと、更新されてるんでしょうけど(笑)。
それにしても、デビュー前の2008年のことも書いてあるんですよ。だから気持ち悪いなって(笑)。なので今後そういうのを見なくてもいいような本を作ろうと。
10年って大きかったですか?
ようやく振り返れるなって思いました、10年で。自分が弾いた曲とか、恥ずかしくてそんなすぐに聴けなかったんですよ当時って。何でもそうですけど、やり終えた瞬間から違う感覚って芽生えるじゃないですか。後悔しそうと思って、しばらく聴けなかった曲とかも、やっぱり10年経つと「この人頑張ってるな」みたいになって(笑)。
めっちゃ客観視してますね(笑)。実際のところ、20代を終えるって気分はありますか?
ここにきてやっとリセットされる感じが、新しいことが始まる感じがすごくしますね。
それは、どんな変化があったからなんですか?
マーケットがものすごい勢いで変わりましたよね。僕らがデビューしたときって、アニメのタイアップとればCDがどれくらい売れるとかっていう方程式がまだあったんですけど、今や関係なくて。で、なんかすごいアイドルがバーって出た時代を横目にバンドってもうどうなんだろうねって言ってたら、髭男とかKing Gnuみたいなバンドが出てくるっていう流れがあって、本当に目まぐるしかったなって。
確かに。音楽業界自体がこの10年で様変わりしました。
配信になりフィジカルが全然売れないとか、本当に全部がカルチャー的に変わった10年だったんで、ある意味ここからじゃないかなって。今年や来年にあらゆるシステムとかも変わると思うんで、新しい感覚で物事をやっていかないとなっていう。
変化の中でバンドとして適応していくか、貫くか、そういうジレンマも経験してきたんじゃないですか?
そうですね。たとえばフェスとか。ああいう見本市みたいなときって、不特定多数の人がいるじゃないですか。しかもちょっと前まで「四つ打ちブーム」だったんですね。僕らの音楽とは全然違う。それが通じないのはいいんですけど、「音楽をやっている者として、流行りものとして取り入れるべきなんじゃないか」「いや、やっちゃうと……」っていう議論はメンバーの中でもあったんですよ。
そうだったんですね。
実際、ものすごい断腸の思いでそういう風にシフトして出ていった年があるんです。でも、新譜リリースのインタビューのときに「いや〜、今回も変わらないOKAMOTOʼSで」みたいなことを言われて、俺らって何なんだろう、どういう風に思われてるんだろうって。全然違うものを出したつもりなのに、いつも通りってヤベェなって。いよいよ自分たちのことがわからなくなったときもありました。
「世界観が一貫している」と見られているとも言えませんか?
よく言えばそうです。でも、あの時期、どこが売りなんですかって言われると本当にわからなかった。何でもできちゃう技術力がある程度あったりして、それが器用貧乏みたいにはなりたくないし。
そのジレンマはどうやって乗り越えたんですか?
もう逆にやりたいことに振り切った。そのとき、アルバム1枚がひとつの話になっているっていう作品を作ったんですけど、もう原点回帰で。
結局は、自分の信じることをやるしかないと。
そのアルバムを作っているくらいのときに、確かSuchmosとか出てきたんですよね。で、音楽シーンが、聴かれ方が変わってきだした。だから10年続けることで、ずっと景色を見てきたことの強さみたいなものは、やっぱりあると思うんです。
その結果、この10年のハマ・オカモトとは何だったのでしょう?
振り返ってみると、自分たちの力というより、人の手によって作られた10年だったなと。スタイリングとか制作やライブのチームも良き人たちに恵まれて、ファンももちろんですし、楽しく自然に物事をやれているのはそういう身の回りにいてくれる人たちが作ってくれたものだっていうのをすごい実感してます、今。
そしてこれからは、どういう風に生きていきたいとかありますか?
これからの10年は、自分たちで作るっていうか。より自分たち主体で物事を動かしていくことができたらいいなと思いましたね、心の底から。だから今回自分で作った本って、人に作ってもらったものをまとめたって感じなので。仮にもう10年経ったときに10年を振り返るとすると、本当に自分で書けるものみたいな10年にすべきですし。
それは大きな違いですね。
あとは続けることですね、本当に。続けることがいかに難しいかっていうのは、10年やって思ったので。同期のバンドとかもどんどん活動休止とか解散っていう風になっていって、やっぱりただやりたいことだけを続けていけるなんて美味しい話はないと思っているし。これからもずっと考えなきゃなって思いますね。
激動の音楽業界を生きるハマ・オカモトさんが抱えていたジレンマは、多くの人にも共感できる部分がある。今持っているスキルがすぐに陳腐化してしまう時代。自分の成長のスピードと時代の変化がずれだして自分を見失うこともある。それでも、特にこの時代を生き抜いているということは、これからどんな変化があってもしなやかに、したたかに自分を出しながら、新しいモノを貪欲に吸収していくセンスが備わっているのだと信じたい。過去を振り返りながらも、一回リセットして前を向き、この先の変化を楽しんでいく心持ちが必要なのだと思う。
第4回につづく。次回は川村元気さんインタビュー。
<ハマ・オカモトさんの最新情報>
ベストアルバム「10’S BEST」
2020年4月15日に発売される、OKAMOTOʼSのデビュー10周年を記念したベスト盤。収録内容はファン投票などによって決定。これまでのバンドの軌跡が詰まったアルバムだ。
BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト“とはなんだったのか?』
ハマ・オカモトの10年の活動を年譜でまとめたうえ、ロングインタビューによって、その歩みをひもといていく。
スタイリスト:TEPPEI
スタイリストアシスタント:守田圭佑
ヘアーメイク:藤井陽子
撮影:岡祐介